第141回直木三十五賞受賞作、北村薫『鷺と雪』(文藝春秋 2009)を大体読む。
昭和初期の東京を舞台に、世間知らずで華族の娘の英子さんとお抱えの女性運転手べっきーさんの2人が、身近に起こる謎に挑戦するミステリーとなっている。
一連のシリーズ物となっており、表題作の他、『不在の父』『獅子と地下鉄』の2作が収められている。
巻末に数十冊余りの参考文献が挙げられており、当時の華やかで優雅な華族と貧民街で暮らす労働者の生活の対比が丁寧に描かれていた。
推理小説としては正直つまらなかったが、往時の世相を知ることができた。
華族の裕福な生活をばっさりと捨て、隅田川沿いでの劣悪な生活に飛び込んだ子爵の男性のセリフが印象的であった。晩年の有島武郎を彷彿とさせる。
身分があれば身分によって、思想があれば思想によって、宗教があれば宗教によって、国家があれば国家によって、人は自らを囲い、他を蔑し排撃する。そのように思えてなりません。そう思えば、所詮は自分自身が、全てを捨てて無となるしかない。