第111回芥川賞受賞作、又吉栄喜『豚の報い』(文藝春秋)を半分ほど読む。
表題作の他、1編が収録されている。沖縄では「神の島」とも言われる久高島をモデルとした真謝島を舞台に、物語が繰り広げられる。
もう少し落ち着いた生活をしていれば、じっくりと離島での人間関係を味わうことができたのだが、なにぶん出張続きでバタバタしており、読書に勤しむ余裕がなかった。
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倉松川サイクリング
鶴見川CR〜武蔵野南線
『江田島殺人事件』
内田康夫『江田島殺人事件』(祥伝社ノンポシェット 1997)を読む。
1988年に講談社から刊行された本の文庫化である。東郷平八郎の佩剣や海軍兵学校時代の訓戒など史実を踏まえつつ、軍拡に走る軍需産業に絡む殺人事件を、お馴染みの名探偵浅見光彦がさらっと解決する。ミステリーとしてはいまいちであったが、潔く命を捧げ軍神になることを良しとする風潮が蔓延っていた軍隊時代の弊害について理解できた。
五省(海軍兵学校で用いられた訓戒)
一、至誠に悖る勿かりしか
真心に反する点はなかったか
一、言行に恥づる勿かりしか
言行不一致な点はなかったか
一、気力に缺くる勿かりしか
精神力は十分であったか
一、努力に憾み勿かりしか
十分に努力したか
一、不精に亘る勿かりしか
最後まで十分に取り組んだか
「ゼロになる瞬間」
本日の東京新聞朝刊の論説委員のコラムが印象に残った。
パワーリフティングに比べて、ウェイトリフティングは技術が占める部分が多いと聞いたことがあるが、テクニックだけでなく、武道に近い「間合い」や「虚実」があるという。鉄の塊であるバーベルですら「柔能く剛を制す」攻略法があるのだから、人間を相手にする武道ならばなおさらであろう。
リオデジャネイロ五輪の重量挙げ女子48キロ級で銅メダルを獲得した三宅宏実選手(30)の父でコーチの義行さん(70)と、ゴルフをご一緒させていただいたことがある。その時、愚問とは思いながらも尋ねてしまった。
「自分の体重の二倍以上もあるものを、なぜ持ち上げられるのですか?」
おそらくは幾十度となく聞かれてきたこと。だが義行さんは温和な表情を崩すことなく説明してくれた。
「大切なのはタイミング。バーベルを持ち上げる時、バーがしなって一瞬だけ重さがゼロになる瞬間がある。その時に一気に引き上げるのです」。この言葉に、重量挙げの奥深さを垣間見た気がした。
一九六八年メキシコ五輪で銅メダルの義行さんは、東京とメキシコの両五輪で金メダルだった六歳上の兄・義信さんにどうしても勝つことができなかった。娘が重量挙げに挑戦したいと打ち明けたのは中学三年の時。するとゴルフざんまいだった生活を娘の指導に専念することに変え、ゼロになる瞬間を二人で追い求め続けてロンドン(銀メダル)とリオで五輪メダルをつかみ取った。
兄に勝てなかった人生の忘れ物のような思いを娘に託し、成就させた義行さん。ラウンドを終えて「これから娘をコーチするので」と18番ホールから一直線に駐車場に向かった時の後ろ姿が忘れられない。 (鈴木遍理)