吉田武彦『食料問題ときみたち』(岩波ジュニア新書 1982)を読む。
衆院が解散し、原発、消費税とTPPの3点が大きな争点となっている。「TPPから日本の食と暮らし・いのちを守るネットワーク」のホームページを見ると、食料自給率はTPPの参加により40%から13%まで下落するとの予想まで出ている始末である。今後のあるべき食料政策を国民的議論の俎上に乗せた上で、衆院選挙を捉えていかなければならない。
アメリカ政府が1980年に発表した『西暦2000年の地球』で発表されたタイの環境破壊の記載が興味深かった。以下、孫引きです。
タイのアメリカ大使館はつぎのように報告している。薪の拾集、焼畑農業、保護森林への非合法的な大規模な侵入といったことがあいまって、タイでは完全に地上をおおうような森林は、1987年までに事実上はぎ取られてしまい、もっとも楽観的に予想しても、1993年以降には、もはやタイに有効な森林が残存する見込みはない。森林を伐採した結果として、タイは、洪水と乾燥にいっそう苦しむようになり、可耕地域の面積は表面的に拡大しているようにみえても、土壌浸食がすでにはげしく、この状況は今後さらに苛酷になるであろう。
Wikipediaによると、昨年発生したタイの大洪水であるが、自然災害による経済損失額の大きさでは、東日本大震災、阪神大震災、ハリケーン・カトリーナに次ぐ史上4位であったそうだ。しかし、この「人災」はすでに30年前に予想されていることであったのだ。
TPPに完全参加しても輸出は増えず、日本の農業が破壊されるだけ、ただそれだけである。しかし、日本の田んぼは米を作るだけでなく、大雨時には貯水ダムの役割を果たすなど、環境保全の一環を担っている。タイの例を見れば分かる通り、日本の農業、とりわけ稲作の破壊は、そのまま環境の破壊へ繋がっていく。
筆者は最後の章で、次のように述べる。30年前の書かれた中高生向けの新書の一節であるが、現在の政治家に投げかけたい言葉である。
21世紀にむかって、世界の食料事情が必ずしも楽観できず、国ごとの不平等がひろがると予想されているとき、少しでも国内生産を高めて輸入を減らすことは、私たち自身のためばかりでなく、未来の世界、とくに発展途上国の飢えた人々に対する日本の責任ではないだろうか。