宮崎哲弥『ビジネスマンのための新・教養講座』(洋泉社 2002)を読む。
新聞コラムやテレビ番組等で活躍する評論家宮崎氏がビジネス雑誌に連載したエッセーや金融コンサルタントの木村剛氏との対談が収められている。
2001年の9・11テロのすぐ後に、次のようなコメントを残している。
イラク戦争に始まり、2007年のサブプライム、2008年のリーマンショックと見事に予想が的中している。
経済への打撃も計り知れない。アメリカ本土への直接攻撃に等しいテロリズムへの対応として始まった「報復戦争」が、ベトナム戦争のように長期化、泥沼化することになれば、アメリカ景気の命綱である消費者心理がシュリンク(萎縮)してしまうことは避けられない。
戦況の深刻化に伴って景気後退の様相が明らかになれば、ドットコム・バブル、株バブルに引き続いて不動産バブル、債券バブルの連鎖的崩壊が起こるだろう。そうなると個人が抱える債務が不良化し、一層の消費減退に結びつく可能性が高い。これがさらなる企業業績の悪化を招き、またぞろ失業者が増えてしまう……。アメリカ経済は、このよゆな景気後退、デフレ深化のヴィシャス・サークル(悪循環)にはまり込んでしまう虞が出てきた。
また、当時アメリカの航空業界は規制緩和の波にさらされ、競争のあまりセキュリティ管理は杜撰極まりないものであったという。その点について、著者は次のように述べる。
経営効率の追求とは詰まるところ、一定条件下での最適化ゲームである。その前提条件には、決死のテロリストが旅客機をハイジャックし、乗客もろともカミカゼ・テロに及ぶというリスクは想定されていなかった。いや、仮に勘案されていたとしても、発生確率がきわめて低いものと見積もられていたはずである。
このファクトから私達はリスク・マネジメントに関する重要な教訓を汲み取ることができる。効率化、つまり想定された条件下での最適化を過度に押し進めると不測の条件の変化に適応できなくなり、結果として敗亡してしまうという教訓である。
9・11テロの教訓だけに限らず、日本のあらゆる現場でも生かすべきことだと思う。