第136回芥川賞受賞作、青山七恵『ひとり日和』(河出書房新社 2007)を読む。
高校を卒業してから、親戚の変わり者の吟子おばさんと奇妙な二人暮らしを始める主人公知寿の心模様が丁寧に描かれる。そして、二人暮らしの中で、知寿はアルバイトを始め、そして恋人に振られ、大人の振る舞いを知っていくことになる。一年間のモラトリアムを経て知寿は正社員となり吟子おばさんの家を卒業していく。
中盤はまったりと時間が流れていくのだが、最後は気持ちよいくらいのスピードでラストスパートしていく。最後の一節が特に印象に残った。
電車の中から見えるその景色は、書割りの写真のようにぴたりと静止している。そこにある生活の匂いや手触りを、わたしはもう親しく感じられなかった。自分が吟子さんの家に住んでいたのがどれくらい前なのか、ふとわからなくなる。ホームに出ておーいと叫んだとしても、その声があっちの庭に届くまでには何年もかかるような気がした。
発車の合図のベルが鳴って、背後で扉が閉まる。(中略)
電車は少しもスピードをゆるめずに、誰かが待つ駅へ私を運んでいく。