月別アーカイブ: 2011年12月

『陰日向に咲く』

劇団ひとり『陰日向に咲く』(幻冬舎 2006)を読む。
数年前に映画を見たが、ちょうど良い具合に内容を忘れていたので、初めて読む物語として楽しむことができた。ホームレスやストリップ劇場の芸人、見せかけにとらわれる若い女性、売れないアイドルの追っかけなど、決して陽の目を見ることのない人たちのドラマを描く。フィクションなのだが、現代の東京に暮らす人たちのリアルな生活実感が描かれており面白かった。

『感動をつくれますか?』

久石譲『感動をつくれますか?』(角川Oneテーマ21 2006)を読む。
宮崎駿氏や北野武監督の映画音楽で知られる久石氏が、商業ベースの映画音楽の世界で、いかに監督や観客の期待に応えつつ、作品世界に彩りを添え、なおかつ次の世代まで残るような音楽を紡ぎだせるか、芸術論に始まり、制作のコツ、生活習慣まで詳細に語る。

一流の芸術家というと、音楽の世界にどっぷりと浸かった生活破綻者という旧来のイメージが拭えない。しかし、久石氏は人格と作品は別物であり、なおかつ映画音楽は一曲だけで成立するものではなく、作品全体のバランスを常に考慮したものであると述べる。そして、時には画面のイメージとは対極のメロディが必要とされる一筋縄ではいかない難しいものであると指摘する。

『風俗ライターが行く わくわく北朝鮮ツアー』

やまだおうむ『風俗ライターが行く わくわく北朝鮮ツアー』(英知出版 2005)を読む。
英知出版から刊行される刺激的なタイトルの本であり、平壌市の監視の目の外にあるアングラな風俗の特集なのかと思い手に取ってみた。しかし、その期待は見事に裏切られた。北朝鮮(共和国)の観光ツアーに参加した著者が、板門店やチュチェ塔、万景峰、開城などの「観光地」で感じた違和感を丁寧に繰り返し説明する。やがて、その違和感は自国民の犠牲の上に外国に向かって虚勢を張る北朝鮮の政治に向けられる。

「その光景は、1950年代にアメリカで盛んに作られたB級SF映画に登場する核戦争後の世界を彷彿させる」と著者も述べるほど、北朝鮮という国自体が張りぼての世界であることがひしひしと伝わってきた。平壌中心部の地図も掲載されているが、良くできたアニメやRPGのマップを見ているような錯覚にとらわれる。

『麻衣』

先日、DMM.comというCDやDVDのみならず衣装や車までレンタル商品を扱っているサイトの会員となった。毎月8枚CDやDVDが自動的に送られてくるので、子どものトミカのDVDを借りまくっている。

久石譲の娘の麻衣さんの『麻衣』というCDを借りて車の中でずっと流している。その中の「永遠の地へ」という曲が特に気に入ってリピートして聴いている。伝統芸能や俳優と違って、音楽は親の七光りが通用しない世界である。その中で、父親が作曲した曲ではあるが、独自の透明な世界を表現しようと何度も練習し心を込めて歌っている感じが伝わってくる。

『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』

黒川伊保子『怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか』(新潮社 2004)を読む。
日立の「インスパイアー・ネクスト」のキャッチコピーやカローラ、クラウンといった商品名など具体例を挙げながら、意味や言語を越えて、言葉の音そのものの働きの分析を試みている。例えば、B音やG音、D音、Z音といった濁音は膨張+放出+振動の発音構造となり、特に若い男性に好まれる音構成だという。また、S音は爽やかななイメージ、H音は開放、N音は慰撫、K音は鼓舞などを想起させる音であるそうだ。

言葉の音の漠然としたイメージを物理的に分析した先駆的な研究成果の披露だと著者は述べるが、大学のころの国語学の授業を思い出すような内容で、どうも苦手意識が先立ってしまう。タイトルに騙された感じだ。