月別アーカイブ: 2009年5月

『とれたての短歌です。』

俵万智・浅井慎平『とれたての短歌です。』(角川文庫 1989)を読む。
俵万智さんの短歌に浅井さんの写真がコラボされている作品である。以下の短歌が気に入った。すぐに連絡が取れる電話や留守番コールがあるのだが、なかなか相手がつかまらないという、携帯電話が普及する前のすれ違いがうまく描かれている。
こうした短歌を読むにつけて、つくづく携帯電話なるものが、恋人同士の微妙な不安や期待の気持ちを切り捨てていったかが分かる。

まだ何も書かれていない予定表 なんでも書ける これから書ける
すれ違う 私とあなたのスケジュール むすんでひらいて留守番電話
心にはいくつもの部屋 好きだから言えないことと 言わないことと
新しいテレホンカードに替わるまで 一人と一人になる五秒間

『風俗と革命』

青木弘樹『風俗と革命』(東京図書出版会 2006)を読む。
タイトルに惹かれて手に取ってみた。おそらくは自費出版で刊行された本であろう。
風俗譲との恋愛を経て「生きる力」を得た主人公が、労働者を使い捨てて利益追求に猛進するレコード会社社長を殺害するという話である。ケータイ小説のような展開で、次作に期待したい。

『激動の時代 特別編:サブプライム問題を語る』

アラン・グリーンスパン『激動の時代 特別編:サブプライム問題を語る』(日本経済新聞出版社 2008)を読む。
1987年より18年間、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)の議長を務めた人物の回顧録の抄録である。
グリーンスパン氏は、自由市場資本主義の立場をに依拠し、政策金利を下げることで、世界的規模でローリスク・ローリターンな貯蓄資産をハイリスク・ハイリターン金融市場へつぎ込んできた張本人とも目される人物である。
確かにここ数十年、一部の国を除いて極端なインフレは起きていないので、グリーンスパン氏の経済分析・政策は的確であったのだが、現在の金融不安を招いたFRB議長としての責任は大きいであろう。

『爆笑問題の日本原論:世界激動編』

爆笑問題『爆笑問題の日本原論:世界激動編』(幻冬舎 2002)を読む。
爆笑問題となっているが、ほとんどは太田光氏の手によるものだそうだ。太田氏は様々な社会問題の「構造」を捉えるのが上手い。そして問題に関わっている人間に焦点を当てて構造化するので、その「構造」を用いて人物を入れ替えれば
戦争論3
新しい視点で笑いがとれるのだ。
例えば、

『戦争論3:新ゴーマニズム宣言SPECIAL』

sensouron3_book

小林よしのり『戦争論3:新ゴーマニズム宣言SPECIAL』(幻冬舎 2003)を読む。
朝日新聞的な戦後民主主義を謳歌する反戦チワワなサヨクを批判し、その刀で産経新聞的な親米ポチな保守を斬る。そして「国=公」のために命を捧げた特攻隊の武士道精神に見倣うべきだと懇々と説く。
イラク戦争は正義なき一方的な侵略戦争であると糾弾するだけでなく、大航海時代以降、他国を侵略し続けることで国を維持してきたアメリカの構造的な欠陥であると分かりやすく述べる。
論理が繋がっておらず、「そういうお前は一体何者だ」とつっこみどころ満載なのだが、派手な絵とゴシック体の台詞を用いて、勢いで自説を展開する。先日の佐高氏が述べていた「生理」感に溢れているのは事実だ。
作者は後書きで次のように述べる。

この『戦争論3』で、わしは今、アメリカが行っている戦争が、国際社会のルールを破壊する蛮行であり、過去から一貫して続くアングロサクソンの侵略と収奪のDNAに基づくものであることを明らかにした。
その道義なき戦争に荷担することは決して日本の国柄に沿うものではなく、とりあえず暴力団についていけば喧嘩もできる普通の国になる、などという醜悪な意見を、親暴力団保守派(=親米保守派)が口にするのは驚嘆すべき事態である。本書を再読して我々の先人たちが、いかに潔癖であったか、いかに道徳的であったか、日本の何を守ろうとしていたのか、理解して欲しい。
日本は独立しなければならない。あくまで最終事態を設定した自主防衛の構えを作らなければならない。