本田創造『私は黒人奴隷だった:フレデリック・ダグラスの物語』(岩波ジュニア新書 1987)を読む。
1818年にアメリカのメリランド州で奴隷として生まれ、黒人奴隷というだけで苛烈な生活に追い込まれる境遇から、北部へ逃亡し奴隷解放運動に尽力を注いだフレデリック・ダグラスの生涯を追う。
アメリカの南北戦争というと、北部の自由主義と南部の保護主義の経済対立であり、黒人奴隷解放を訴える北部のリンカーンがヨーロッパの応援を得て勝利をものにしたと習う。しかし、ことはそう単純ではなく、当時からアメリカはWASPこそが社会の中心であり、北部でも黒人差別が根強くあり、また女性やネイティブアメリカンへの蔑視も強かった。フレデリック・ダグラスは単に黒人奴隷を規定する法律を廃止するだけでなく、あらゆる差別や抑圧を跳ね返し、全ての人たちが共存共栄できる社会を目指した。
黒人奴隷解放運動といっても、単に白人による黒人の地位向上だけを目指すグループや、他との連携を重視するグループ、また穏健な啓蒙運動を行うグループや、政治活動を中心とするグループ、武器を用いた破壊活動を計画するグループなど、様々なタイプがあったことが分かった。
目的は似通えども、方針を巡って離合集散を繰り返すのは、日本の社会運動と同じである。