田辺聖子『おちくぼ姫』(角川文庫 1990)を読む。
竹取物語と同じ説話物語のジャンルに属する『落窪物語』を意訳した作品である。おちくぼ姫が男性に会う恥ずかしさよりも、自分の粗末な服を見られて泣いてしまうシーンなど女性心理がうまく描かれている。
よく古典の参考書などでは「継子いじめのシンデレラストーリー」との紹介がなされるが、田辺さん曰く、「少将とおちくぼの姫の純愛」がこの作品を一貫して流れるテーマである。一目会ったその時から、幾多の試練を経て幸せな結婚、出産という大団円を迎える男の純愛がテーマである。田辺さんの脚色も入っているのだろうが、おちくぼ姫に初めて出会った少将は後朝の手紙に次のような言葉を姫に送っている。
夢はまだ見ぬ恋にあこがれ、見たあとはかえって恋がさめるものだといいます。
しかし私は反対です。お目にかかって、ますます、あなたを離したくなくなりました。
ほんとうをいうと、恋をしたことはいままでに幾度か、ありました。
しかし、恋に苦しんだのは、あなたがはじめてです。
あなたに苦しめられる少将より
しかし、メイドカフェの流行など、男性の方が女性に対する勝手な理想に固執するものである。今どきは女性よりも男性の方が、偶然と運命に左右されるシンデレラストーリーに憧れを抱くのではないだろうか。