金子勝『長期停滞』(ちくま新書 2002)を読む。
バブルが弾けてから10年近く、政府は「グローバルスタンダード」の名の下に、安直な国際会計基準の導入やペイオフの凍結解除を行ったり、また赤字国債による公的資金を投入してきた。しかし、信頼と保障の社会経済システムを構築しないうちに、一連の市場原理主義を導入したことで、結局は日本市場の不信感を生み、不況を長引かせてしまったと金子氏は指摘する。そして人々が安心して暮らせるセーフティネットを整えた上で、大規模な公的資金の投入という自説を展開する。
著者はグローバルスタンダードの概要について次のように説明する。
時間と空間の壁を超えにくい雇用や農業にグローバリズムの荒波が及んでくると、ナショナリズムの反発を惹起させる。歴史の教えるところでは、それが自由貿易体制を崩壊させる一つの引き金になってきた。いま、再びWTOの新ラウンドが始まっているが、農産物の自由化問題が一つの焦点となっている。
経済学者たちは、これらの各生産要素を無差別にマーケットという言葉で一括りにしてしまう。確かに、人間が作り出した市場という制度は、時間や空間の制約を超えようとする。だが、市場メカニズムをもってしても、自然の時間や空間を容易に超えることはできない。その軋轢が、歴史の動学を作り出す一つの大きな要因となってくる。
事実、この間、事態は歴史の教える通りに推移してきた。グローバリゼーションの波はまず金融の自由化から始まった。その結果、国際金融市場を不安定化させてきた。それゆえ金融自由化政策は、絶えず「グローバルスタンダード」という名の規制強化を必要とさせる。つまり金融自由化と規制強化のいたちごっこに陥るのだ。