さくらももこ『そういうふうにできている』(新潮社 1995)を読む。
妊娠の話であったが、男には理解できないであろうマタニティーブルーや帝王切開に望む緊張がうまく彼女なりの言葉で描かれていた。保健や家庭科の授業でならう教科書的な無機的出産や母性とはことなる驚きが素直に書かれている部分を一部引用してみたい。
授乳を始めるとますます子供に愛情が湧くとよく言われているが、私には愛情が湧いてくる余裕が無かった。私も子供もお互いに必死であった。私は”死なすまい”と思い、子供は”死ぬまい”と乳を吸う。実に生々しく、ヒトは単なる動物にすぎないとあらためて実感した。私達は本能にプログラムされている種の存続という任務を忠実に遂行しているのだ。子供は誰から教わらなくとも乳を吸う手段を身につけており、私もこの生命を死守しようとしている。愛情とは違う。似ているが別モノだ。