『21世紀 知の挑戦』

立花隆『21世紀 知の挑戦』(文芸春秋社 2000)を読む。
衝撃的な一冊だった。身体中目玉だらけになったショウジョウバエや人間の耳を背中につけた生きたマウスの話は想像するだけでも背筋が凍る。TBSテレビで放映された「ヒトの旅,ヒトへの旅」という番組のmaking ofとなっている。
とりわけDNAを中心とした生命科学にページの大半を割いている。私たち市井の民にとって遺伝子というと「遺伝子組み換え食品」といった「いかがわしい」イメージのつきまとう言葉しか浮かんでこないが,そもそも「性」がある生物が子孫を作るときには必ず遺伝子の組み換えが行われるのである。そして「性」がない生物の場合は,子孫はクローンとして作られる。つまり子孫作りをするには,クローンで行くか,遺伝子組み換えで行くか2つしかないのである。

ハーバードでもMITでもカルテック(カリフォルニア工科大学)でもアメリカのトップランクの大学では,全学生に分子生物学と細胞生物学を必修として義務づけている。そしてDNA解析の先端研究の大半がアメリカの製薬企業によって独占され,特許が申請されている現状はよく知られている。最近の研究では,ある条件の下では二酸化炭素と水素から石油を作り出す「HD-1」という微生物が発見されたり,ガン抑制遺伝子の一つである「P53遺伝子」を直接腫瘍部に注射で打ち込んだりといったところまで進んでいる。さらに遺伝子治療に「HIVベクター(エイズウィルス)」を用いる「毒に毒をもって制す」実験まで行われている。

原生生物はすべて細胞一つ一つの核の中に,DNAという形で巨大情報データベースを持ち,エネルギー産出システムを受け持つミトコンドリアという細胞内小器官を持っている。そして生命を遺伝子を視点に情報系として捉えた時,生物は巨大なスーパーファミリーとなる。そして,人間を含むあらゆる動植物はエントロピーの増大の系の中に,エントロピーの減少系を作るという形でなされている以上,人間のあらゆる価値判断も地球・社会にとって,ヒトという種にとって,生命界全体にとって,自然界全体にとって良いことかどうかという視点で捉えていくことが求められると結論づける。

分子生物学の背景に巨大産業,国家が蠢いている姿は,グローバリズムの爆発的拡張の動きと相俟って,嫌が上でも無気味な近未来の姿を彷佛させる。

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