『逆名利君』

佐高信『逆名利君』(講談社 1989)を読む。
「逆名利君」とは人物名ではなく、漢の劉向が記した『説苑』の中の「命に従いて君を利する、之を順と為し、命に従いて君を病ましむる、之を諛と為し、命に逆らいて君を利する、之を忠と謂い、命に逆らいて君を病ましむる、之を乱と謂う」の一説から取られた熟語である。この言葉は、かつて住友商事で会社のルールや慣習から大きく逸脱しながらも、業務本部長となり、社会の中における会社のあるべき位置について考え実践してきた鈴木朗夫氏を評したものである。「とりわけ日本のサラリーマンは、会社第一で自閉症ならぬ、”社閉症”に陥り、会社に飼われた家畜ならぬ”社畜”となって、会社と社会、あるいは自分と社会との関係を見失ってしまう」中で、佐高氏は自分のスタイルを通し、会社の枠を越えて広く、日本社会の現状を変えようとした鈴木氏を高く評価している。俳人で有名な山口誓子も住友出身であり、今は絶えてしまった住友商事のDNAが惜しまれる。

鈴木氏は住友商事在職時代に、役員でもないのに「住商の将来を考える」鈴木メモを残している。住友商事という一会社だけでなく、日本の会社風土全体に対して鈴木氏は批判を加えている。彼の批判は今もって日本の陰湿な集団馴れ合い主義の痛い所を突いている。

  • お座なり、”国を守る気概”式の精神論で、守るべき国、守るに値する国の実態についての啓蒙に欠ける。
  • corporate identitiy欠如、即ちframework的なものがないまま、個々のfieldで”頑張れ”を連呼する式の用兵術が依然として主流。”frameworkではめしは喰えないよ”式の誤った職人気質。即ち、知性の荒廃、ひいては倫理の後退。
  • 当社職員は、全員上述のような「従来の経営formula」に合致すべく仕事をして来た。発想も行動も、いきおい従来のformulaにひきずられる。改造後のformulaに従って職員を駆り立てようと思ったら、相当大がかりな、しつこい、ただし科学的な社内教育の徹底が必要。”危機意識を持って頑張れ”は巻頭語ではあり得ても、結語ではない。frameworkを知的な方法で徹底させること不可欠。

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