『本当の学力をつける本』

陰山英男『本当の学力をつける本:学校でできること家庭でできること』(文藝春秋 2002)を読む。
読もう読もうと思っていてやっと読むことが出来た。現在では言わずと知れた「100マス計算」を用いて、反復学習の徹底によって子どもたちの能力開発を図ろうとする「陰山メソッド」の提唱者である著者のデビュー作である。著者は古典の暗唱と漢字の書き取り、そして計算ドリルの反復練習といった江戸時代の寺子屋式の「読み書きそろばん」能力の錬磨に力を置く。

有名大学に多数の合格者を輩出したという山間の兵庫県朝来町立山口小学校では「奥の細道」や「日本国憲法前文」「枕草子」「源氏物語」「方丈記」「平家物語」「伊勢物語」、はては「論語」「老子」「孟子」「徒然草」の暗唱までやらせていたというのだから驚きだ。近年文章読解の技術にばかり重点が置かれ、文章そのものを斉唱し暗記するというのは「古い」と考えられがちである。
しかし、確かに内容が分からなくてもとにかく口に出して暗唱するというのは文章の内容だけでなく、文章のもつ独特なリズムや言い回しを含めて覚えることが出来るので効果的である。
著者の提唱する100マス計算にしろ、古典の暗記にしろ、早朝マラソンや栄養と学力の比較など、昔から個人レベルで、学級レベルで行われてきた手法でなんら目新しいものはない。しかし、それを学校全体でシステム化してしまった所に陰山氏の功績があると思う。

時間を計測して生徒に計算ドリルを強制させたり、公式の暗記を優先させたりと、陰山氏のやり方はとかく管理的な教育手法だとする批判も多いようだ。けれども、小中学生段階でいたずらな応用力や表現力、鑑賞の育成に主眼を置き、かえって生徒に不安や劣等感を与えている現状を考えると十分に検討してみる余地はある。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください