『日蝕』

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平野啓一郎『日蝕』(新潮社 1998)を読む。
京都大学法学部在学中に「新潮」に投稿して巻頭に一挙掲載され、翌年芥川賞を受賞し、「三島由紀夫の再来」と騒がれた著者の作品である。
宗教改革の嵐が吹き荒れる前の15世紀末から16世紀初頭のフランスが舞台である。とある神秘的な超体験によって、体得した神学者ニコラの回想録という形をとって話は展開する。神学者ニコラは、スコラ哲学者トマスアクィナスの目指した信仰と理性、超自然と自然の調和の実体を求めてフィレンチェを目指して旅に出る。その道中、ゾロアスター教やマニ教などの異端教が解く教義−世界を秩序付ける善と悪の対立や矛盾−を越えようと、錬金術に没頭するピエェルに出会う。しかし、冷害による貧困にあえぐ民衆は生活苦のスケープゴートに、ピエェルが錬金術で作り出した両性具有者を仕立て上げる。ピエェルによって生み出された「完全な存在」の両性具有者が処刑される現場で、神が作り出した不完全な人間という被造物と完全な存在である両性具有者の一体化をニコラは経験する。(書いている内に自分でも何が言いたいのか分からなくなってきたぞ…)
悪魔との一体化によって救いを得ようとする永井豪原作の『デビルマン』や、逆に永遠の生命との一体化を求めんとする人間の不条理を描いた手塚治虫原作の『火の鳥』を彷彿させる作品である。難解な言葉回しさえ気にしなければ、ストーリーは面白く読める作品である。

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