『新ゴーマニズム宣言SPECIAL:台湾論』

小林よしのり『新ゴーマニズム宣言SPECIAL:台湾論』(小学館 2000)を読む。
雑誌「SAPIO」で連載している「新ゴーマニズム宣言」で2000年の夏から秋にかけて特集された台湾論を集めたものである。
野党の陳水篇氏が勝利した2000年3月の台湾総統選挙に際して、台湾の民主化の変わり目を感じた著者が、実際に台湾に渡り、陳氏や前総統の李登輝氏に直接対談を試み、台湾の過去、現在、未来を私見を交えて大胆に語っている。著者は、戦前のアジア政策を全否定する「サヨク」を批判し、台湾では偉大で侍魂を持った日本人が活躍し、現在の台湾人の矜持と経済的発展の礎を築いた、という歴史を直視すべきだと力説する。そして現在の中華人民共和国による「1つの中国」政策の押し付けの中で、台湾人としてのアイデンティティの確立に力を注いだ李登輝全総統から学ぶことが大事だと述べる。
経済や観光での結びつきが深まる一方で、政治的に疎遠で今一つ馴染みが薄い台湾の入門書としてよくまとまっている。台湾には大陸から2キロほどしか離れていない金門島や馬祖島という領土があることや、徴兵制が敷かれていることなど、その軍事的意味や背景など丁寧に説明している。必要以上に肩肘張って中華人民共和国や日本の「サヨク」が歴史を歪曲していると批判する場面を除くと、台湾の観光の参考書として非常に面白い。
また台湾のアイデンティティについて、著者は「わしが言いたいのは血統による民族主義でアイデンティティーを規定するのは無意味だということ。わしは今の日本人を作っているものは「血」ではなくて「国土」や「言語」「歴史」だと思う」と極めて正論を展開し、台湾の精神的独立、政治的自立を擁護している。

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