西村一・藤崎慎吾・松浦晋也『日本列島は沈没するか?』(早川書房 2006)を読む。
小松左京の『日本沈没』や藤崎氏が書いた小説『ハイドゥナン』の2つのSF作品の背景となった、プレートの動きによる日本沈没の可能性や研究の最前線を小説に即して解説している。作品自体を読んでいないので、伝わらない箇所がいくつかあったが、地球の46億年の歴史を、46歳の中年の人生になぞらえた説明など、新しい視点で地学を理解することができた。
今から50億年後に太陽が赤色巨星と化して地球を飲み込むと考えられている。この1億年を1年として考えてみると、地球の寿命は96歳である。なかなかイメージしやすい。生命誕生が約40億年前といわれているので、地球が6歳のころである。そして約27億年前に地球の磁場が急に強くなり、地磁気が生まれたと考えられている。この磁場が宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子(宇宙線)を防いでくれるようになった。DNAを切り刻む恐ろしい宇宙線が届かなくなったことで、光合成をする生物が地表に出現した。地球が19歳のころである。
25歳ころの地球では真核生物が出現していた。DNAが膜に包まれて細胞核らしくなった核を持つ生物である。有性生殖もできる生物の完成である。そして地球が36歳のころに、アメーバやゾウリムシなどの単細胞生物ではなく、多細胞生物が誕生している。地球が40歳を超えたころ、多細胞生物は進化して固い骨格をもつようになり、いわゆる「先カンブリア紀の爆発」が始まる。地球が41歳のころ、生物はとうとう海から陸上への進出を果たす。このころが人生の「山」であろう。
ところが、2億5000万年前、地球が43歳のころに、あらゆる生物が大量に死滅する「谷」の時代を迎える。原因ははっきりとしないが、パンゲアという超大陸が分裂を始める時期と重なる。大規模な火山活動が起き、大量の粉塵が成層圏まで運ばれ、地球は暗黒の煙幕で覆い尽くされ、植物は光合成をやめ、大気や海水中の酸素が減って生物が死滅したと考えられる。この貧酸素時代は約2000万年も続いた。その後1憶8000万年にわたって爬虫類が我が世を謳歌した。地球の年齢で言うと1年と10か月にわたる天下である。しかし、46歳になった6500万年前に巨大隕石の衝突によって恐竜は絶滅している。地球の年齢で言うと8か月前の話である。その後哺乳類が誕生し、約700万年前、年齢でいうと25日前に人類と猿の祖先が分かれた。ホモ・サピエンス(現生人類)出現は今から20万年前。つまり地球にとって、たったの17時間前でしかない。縄文時代の始まりが約1万年前だったとすると、地球にとっての50分前である。
本書を読んでいて、いくつか興味深い点を書き出しておこう。
恐竜が闊歩した中生代(2億5000万年前から6500万年前まで:三畳紀・ジュラ紀・白亜紀)の晩期の白亜紀は、二酸化炭素を含んだ火山ガスが大気中に放出され温暖化が進んだ時代である。海水面が上昇し、地球全体に浅い海が多くなり、そこにサンゴ礁が発達した。この時代に堆積した有孔虫というプランクトンの殻が堆積して石灰岩となった。この石灰岩は白いチョークという堆積岩からできており、白亜紀という名前のもととなった。
1万2000人以上が犠牲になった1771年の八重山地震津波は、宮古島と石垣島の間の黒島沖の海丘の崩落が原因と考えられている。今でも黒島海丘の頂上からはメタンの泡が出ている。海丘がもうちょっと高くて島になっていたら、「沈没」と言われるところだ。
昨年の暮れに、死者400人超を出したインドネシアのスマトラ島やジャワ島で発生した津波は、海底で起きた地滑りが原因とされている。八重山地震もそうだが、地表の災害だけでなく海底における急激な地形の変化が恐ろしいということが理解できる。
大陸上に氷床が広がっていた最終氷期は、2万5000年前をピークとして温暖化に転じ、約1万年前から現在の温暖な時代に移っている。約6000年前にだいたい今の海水準あたりに収まったようなのだが、その間の海面上昇は130メートルにも達する。途中約1万2000年前に「ヤンガー・ドライアイス」と呼ばれる急激に寒冷化した時代があるが、その後、融け残った氷床や融水による巨大な湖が大陸内にまだ存在していたと考えられる。当時、緑豊かだったメソポタミアがその後砂漠化したのは、過放牧や過耕作だけでなく、これら融水湖が消失してしまったためと考えられている。
地殻とマントルの境界面をモホロビチッチ不連続面というが、この奇妙な語感の言葉は、クロアチア人の発見者の名前からとられている。ちなみにマントルと核の境界面はグーテンベルクウィーヒェルト不連続面といい、ドイツの地震学者の名前からとられている。1957年にアメリカはモホール計画というマントルまで掘削するプロジェクトを立ち上げる。これは「モホ」ロビチッチ境界面に「ホール」を開けるという意味である。
太平洋は東太平洋海嶺で左右に広がっている。1年間に2センチというゆっくりとした速さで動いていくが、たった2億年で太平洋の端から端まで移動することになる。中生代初期の2億2500年前からかつて一つだった大陸がプレートテクトニクスによって動き始めた。世界最大の太平洋は6億年ぐらい前ごろに小さな海洋として誕生したが、5億年ぐらい前から縮小を始めている。あと2~3億年ぐらいするとアメリカ大陸と南アメリカ大陸はユーラシア大陸と衝突し、太平洋は消えることになる。大陸が地球を一周し、南極大陸を除くすべての大陸がまた一つになると予想されている。