「えたい知れぬ『空気』立証」

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本日の東京新聞夕刊の連載コラム「ネットと言葉」で、ネットと偏見の相関関係を研究している社会心理学者高史明さんの話が興味深かった。高さんは、昨秋出版した著書『レイシズムを解剖する 在日コリアンへの偏見とインターネット』(勁草書房)で、膨大なツイッターを分析し、在日コリアンへの偏見がネット上でどう現れているのか明らかにしている。
ちょうど先日の「文化系トークラジオ」の中で、8.5秒バズーカやSEALDs(シールズ)に対する誹謗中傷をネットで盛んに行なっているのは40代男性だという話を聞いたばかりである。少々長いが一部を引用してみたい。

 大学院生だった2002年ゴロから、不穏な空気が漂い始めるのを感じた。サッカーワールドカップが日韓共催で開かれ、北朝鮮の日本人拉致関与が明らかになった年。ネットでは差別的な表現が急増した。子ども時代のいじめを思い出した。「教授や院生にも、在日特権のデマを信じる人がいた。これはまずいと思ったんです」
 08年から研究を始めた。統計を取ると、数々の事実が明らかになった。たとえば「社会支配指向」が強い人は、ネットの使用時間が長かった。この指向は、簡単にいえば弱肉強食主義。「下層の人間は搾取されても仕方ない」という考え方だ。
 さらに匿名掲示板である「2ちゃんねる」の、個別の書き込みをテーマごとにまとめて投稿した「まとめブログ」をよく見る人は、「現代的レイシズム」と呼ばれる差別主義的な特徴が強いという傾向も分かった。
 「まとめブログ」は単なるニュースの羅列ではなく、個人のコメントが付いている。「その感情的な感想が、読者に面白いと思わせる。新聞などと違い、ネット情報に期待されるのは正確さより面白さ。言論のマーケットでは、正しい情報が生き残るとは限らない。不快感や怒りを始め、感情を呼び起こすものの方が広まっていく」という。
 「面白い」と思われた情報はどんどん拡散し、マスメディアの情報よりもネットでは大量に出回るようになる。すると「事実と違っても、真実だと信じられていく。一人の論理的な意見より、大勢の不確かな情報が信用される」
 そして「みんなが言っている」という感覚が、これまで「表だって言えなかったこと」を現実社会でも言える雰囲気をつくった。たとえば「沖縄の地元紙をつぶせ」というネット上の匿名の書き込みと同じことを、公的な場で発言する作家が現れた。

用語解説より
【レイシズム】
人種・民族の間に優劣の差があるという思想。米国の黒人差別研究で使われた分類では「この人種は能力や性質が劣っている」というような「古典的レイシズム」と、「差別は解消され、努力不足による『区別』があるだけなのに、被害を主張して不当に特権を得ている」と考える「現代的レイシズム」に分かれる。高さんはこれを日本にあてはめて考察した。「在日は生活保護を優先的に受けられる」「税金は免除」といった「在日特権」のデマは「現代的レイシズム」の一例。

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