李恢成『われら青春の途上にて』(講談社文庫 1973)を読む。
1969年に発表された表題作のほか、1970年に発表された「死者の遺したもの」「証人のいない光景」の2作が収められている。
「われら〜」は、作者の自らの経歴に根ざしたものであり、1955年(昭和30年)に上京し、昼は働き夜は代々木学院に通って大学を目指す朝鮮籍の若者の生活を描く。日本人にも、封建的な朝鮮人の家族にも、東京の生活にも馴染めず、高校を卒業したものの大学にも行っておらず、朝鮮戦争が終わったにも関わらず日帝侵略時代から続く在日差別を味わいながらも、将来を目指す主人公の若者の姿が印象的であった。
主人公の南洙は心の中で次のように述べる。
南洙は自分がなぜ生きているのだろうと考えるときがあった。勉強するためだと自答してみる。では何のために勉強するのだ。きっと朝鮮人になるためだと自答している。それが自分のペンダント(大事なもの)なのだった。それではどのような朝鮮人になるのかと重ねて訊ねてみる。そこで南洙は行き詰った。ただよみくもに、父のようなあの古い家の朝鮮人にはなりたくないと疼くように思うのだ。
「死者〜」は南北統一を希求した父の葬儀を巡るゴタゴタが描かれる。父の葬儀を共同葬儀にしようという提案に対して、朝鮮総聯に所属している弟の私と、民団に所属している兄の確執が表面化する。同じ兄弟でも政治的に分断されてしまっている悲哀が丁寧に綴られている。