『戸隠伝説殺人事件』

内田康夫『戸隠伝説殺人事件』(徳間文庫 1992)を読む。
1983年に角川書店より刊行された本の文庫化である。昨日今日と少し時間があったので、3時間近くで一気に読んでしまった。
2、3年前に長野市から白馬に抜けていく途中で、作品の舞台となった戸隠や鬼無里という地名の看板を見ていたので、妙な現実感を感じながらページを繰っていった。
強圧な憲兵が幅を利かせていた戦前から、戦後の混乱、そして観光地開発が喧しい1980年代へと時代がどんどんと移り変わっていく中で、40年も前の怨恨をずっと心に持ち続けていた巫女が、戸隠に古くから伝わる「鬼女紅葉」伝説に乗っかって続殺人事件を起こすという、時間の流れのアンバランスな設定が読者をどんどんと引きつけていく。殺人事件に絡んで、政治屋や警察行政の皮肉も交えられており、内田作品の中でも一番読み応えのある内容であった。
久しぶりに満足感の残る読書体験であった。ネットやテレビも良いけど、やっぱり小説の物語世界にハマった時のトランス状態に勝るものはないね。

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