『高校を変えたい!:民間人校長奮戦記』

大島謙『高校を変えたい!:民間人校長奮戦記』(草思社 2004)を読む。
表題の通り、民間のエンジニアの著者が三重県立白子高等学校の校長として赴任するまでと着任してからの1年間の奮闘体験記である。大島校長は、組織力、教師力、環境力の3つの力を高め、吹奏楽部や卓球部、家庭科や伝統、心の教育といった白子高校の「ブランド」を高めようと高校経営に乗り出す。しかし、民間ビジネスマンの常識が県立高校では通用しない現実が次から次へと起こる。その中身は「あとがき」の中の著者のボヤキに如実に表れている。
大変読みやすい文体で、校長という一人の人間の成長記として読むこともできる良書であった。

 民間と学校世界はなぜこんなにも乖離してしまったのだろう。働くところはちょっとやそっとではつぶれない、解雇もされない、無競争、フルフラットな人間関係、生産製造活動に関与しないし関心もなく、周りの人と一緒に、いつかどこか遠くで聞いた反戦平和のスローガンを唱えていれば非難されることもない。そんな環境で暮らしていれば、いったいどんな人間になっていくのだろうか。
そんなネバーランドの住人(教師)たちが、毎年入ってくる新人類たちによって、自分たちの世界が「街中化」や「公園化」されていくのがわからない。一部のピーターパンたちが必死に頑張っても、サイレント・マジョリティの沈黙に吸い込まれ、その流れを止めようもない。そして、従来行事の消化と前例踏襲を繰り返すことに不安もない様子だった。
私はそんな「異界」が不思議で、居心地の悪さを感じていた。もっとスピードを上げて改革をと思っても、異界の重力は予想以上に大きかった。学校暦を一巡していない者に何がわかる、お手並み拝見という意識が、学校内には充満していたのかもしれない。それでも、二、三ヶ月もたつと、驚くほどの疑問、矛盾にぶつかった。「学校世界のこんなところが一般社会と異界なんだ」と叫びたい思いがした。

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