『塾を学校に』

高嶋哲夫・小篠弘志著『塾を学校に』(宝島社新書 2000)を読んだ。
早い話が教育の民営化の話で、公立学校を塾と競わせようという提言だ。公立学校の教員は公務員という立場に甘えて努力をせず、また「学級崩壊」も魅力ある授業作りに懸命な塾では皆無であるという現状認識を踏まえて、公立学校の競争相手として塾を全日制にしたらどうかという積極的な内容になっている。ただしそのための具体的なプロセスの話はなく、アメリカのチャータースクール制度の紹介に終わってしまっている。後半は学習塾全国連合協議会や全国学習塾協同組合、全国私塾連盟などのお偉方の推薦の言葉が並んでいる。

確かに現在の教員の抱えるストレスは大きい。校則一つにしても規則を「緩く」すると「だらしない」と批判が多方面から出る。一方で「厳しく」すると今度は「自由を縛るものだ」との声が挙がる。塾講師はそうした微妙な、そして現場の教員が一番疲れる問題から離れているだけ、授業に集中できるし、生徒管理も割り切って対応できる。だからといって現在の学習塾が近所のスポーツクラブやカルチャーセンターと合併してそのまま「一条校」になれるというものでもなかろう。

私がこの本の中で面白いと思ったのは、アメリカで増えているチャーター(特別認可)スクール、つまり「手作りの公立学校」の話である。現場の教師、保護者や地域住民が「こんな学校をつくりたい」と地元の教育委員会に認可を申請すると、公立学校にふさわしいかどうか審議され、承認されれば学校開設の特別許可が下りる。そして、その新設チャータースクールを選んで入ってきた子供たちの数に応じて、公的資金が配分されるという仕組みである。

日本全国の多くの塾がチャータースクール化して、公立だろうと私立だろうと関係なく、その地域と密着して独自の教育観で学校運営がなされて、生徒も全国一律の一定程度の基準をクリアーすれば誰でも中等教育修了という制度が日本に導入されるならば歓迎していいと考える。ただ導入にあたって様々な問題が生じてくるだろうが、武者小路実篤の「新しき村」運動的なものにつながる共同体的な教育が可能になるのではないだろうか。

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