勝見明『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」:セブン−イレブン式脱常識の仕事術』(プレジデント社 2005)を読む。
「単品管理」など小売業界の革命とも言われたセブン−イレブンの立ち上げから一貫して経営のトップにいる鈴木敏文代表取締役会長・最高経営責任者(CEO)の経営哲学が余すところなく紹介されている。そしてその氏の哲学に沿って展開される、セブンイレブンジャパンの広告や出店方針、店舗経営、本社と店舗を繋ぐOFC、IYバンクの立ち上げなどが分かりやすく説明されている。
経営者の組織論のまとめとして手に取ったのだが、興味深い話が多く、ついつい最後まで引き込まれていった。彼の経営哲学の根幹にある「顧客の立場」から物事を考えるという逆転の発想を示すコメントを引用してみたい。
私たちが”顧客のために”と考えるときはたいてい、自分の経験をもとに、”お客とはこういうものだ””こうあるべきだ”という決めつけをしています。だから、やってみてうまくいかないと、”こんなに努力しているのにお客はわかってくれない”と、途端に顧客を責め始める。これは努力の押し売りにすぎません。あるいは、”顧客のために”やっていると言いながら、そこには売り手側の都合が無意識のうちに入っていて、実態はその押し付けになっていたりする。私が社員たちに”顧客のために”という言葉は使うなと厳命するのは、決めつけや押しつけを排除するためです。
今の時代に本当に必要なのは、”顧客のために”ではなく、”顧客の立場で”考えることです。どちらも、顧客のことを考えているように見えて、決定的な違いがあります。”顧客のために”は自分の経験が前提になるのに対し、”顧客の立場で”考えるときは、自分の経験をいったん否定しなければなりません。
わかりやすい例が、自分の子どもを叱るときです。おそらく世の親たちは、”子どものため”になると思って叱っているのでしょう。このとき、親は自分の経験から、わが子はこうあるべきだという考えや感情を優先しているはずです。だから、叱っても言うことを聞かないと、お前のためを思って言っているのに、なんで親の言うことがわからないのかとますます子どもを叱ろうとします。
しかし、子どもは日々成長しています。取り巻く環境も親世代が子どもだったころとは大きく変化しています。もし、”子どもの立場で”考え、その心情も理解して叱ったなら、叱り方は大きく違ってくるでしょうし、子どもの反応も変わるはずです。