五木寛之『ゴキブリの歌』〔五木寛之エッセイ全集 第4巻〕(講談社,1979)をパラパラと読む。
このブログで検索してみたところ、20年ほど前に、10年ぶりに読み返したとの記載があった。ということは30年前の高校生の頃にも読んでいたのだ。まだ黒電話が電話線で繋がっていたころで、電話に出たくない時は、毛布で厳重に包んで押し入れの中に入れていたというエピソードが紹介されており、印象に強く残っていた。
学歴に関する話が面白かった。国勢調査で学歴を記入する際に、大学抹籍の五木氏が高卒か大卒しか選択肢のない調査用紙を前にして、狼狽える場面がある。五木氏は次のように述べる。
私は大学卒と書きたかったわけでも、高校卒に◯をつけることに抵抗を感じたわけでもない。そして、現在、学歴がないことで差別されたり、いやな目にあったりするような仕事にたずさわっているわけでもなかった。むしろ、内心ひそかに、と言うよりも、至極おおっぴらに大学制度を批判している人間だったのである。
にもかかわらず、何となく最終学歴、高校卒、と記入することが癪な気がした。頭では学歴が人間の値打ちと全く関係がないことを承知しており、人にもそうしゃべり、文章にも書いているのに、いざ自分のこととなると何となく口惜しい感じがあるのである。素直に高卒に◯をつけず、大抹にこだわるのは、やはり一種の学歴コンプレックスのなせるわざなのだろうと思う。