煎本孝『カナダ・インディアンの世界から』(福音館書店 1983)をパラパラと読む。
著者は国立民族学博物館や北海道大学で人類学を研究している学者である。机上の学問ではなく、実際に何年もインディアンと共に生活することで、彼らの生活を細かく記している。
福音館書店は主に児童書を刊行している出版社である。この本も小学校高学年以上の漢字には全て振り仮名がふってある。しかし、中身は銃を用いたトナカイの狩猟の具体的な方法と、トナカイを捌いて料理にする細かい叙述があるエグい内容となっている。
一部を紹介したい。
まず、頭の皮が剥がされる。これは後に縫い合わせて乾燥肉などを入れる袋にされる。後頭部の肉はナイフで切り取られる。この肉は味が悪く食べるに適さないといわれ、子犬に与えられる。上顎と下顎とを別々にする。さらに、下顎は左右に開かれたふたつの部分に分けられる。これは、猟場で見られた解体方法と同じ手順である。下顎の先端部の骨から肉がはずされる。先端部の骨を叩き割り中から骨髄を取り出す。下顎後部は骨付き肉のまま水の入った鍋に入れられる。
さて、上顎と頭蓋は眼窩の下を斧で割り、切り離される。さらに、頭蓋部分は左右に斧で割られ、中から脳が取り出される。脳は煮て料理されうが、トナカイ皮は鞣す時に使うため一部を生のまま取っておくこともある。
おどろおどろしい文章であるが、トナカイと共に暮らし、トナカイを大事にするカナダ・インディアンだからこそ、顎や眼球、脂肪、骨髄液まで取り出して大事に使うのである。「骨の髄まで」とはよく言ったものである。
カナダ・インディアンとは、アラスカ内陸部からカナダ中央部にひろがる針葉樹林帯(タイガ)に住み、夏には川や湖での漁撈、冬には凍土帯(ツンドラ)から季節移動してくるトナカイの狩猟を行なって、生活している北方狩猟民のことである。カナダやアラスカの北極海沿岸部に暮らすイヌイット(エスキモー)とは、生活地域が微妙に異なっている。カナダ・インディアンは生肉を食べるイヌイットを侮蔑しているそうだ。
また、トナカイはサンタの乗り物というメルヘンチックなイメージがある。しかし、実際は春から夏にかけてはツンドラへ、秋になるとタイガへ集団で南下してくる移動性野生動物種に属する。