本日の東京新聞朝刊の書評欄に、東京高円寺を拠点に反原発デモなどを行ってきた「素人の乱」代表の松本哉さんの著書が顔写真入りで紹介されていた。
松本さんは記事の最後で、次のように語る。
狭く閉じた遊びや情報だけでなく、見知らぬ世界とつながることが反乱への一歩かもしれない。
なにやら現代文の教科書の巻頭エッセーに出てきそうな文章の言葉である。東京新聞大日方公男記者ならではの味のあるまとめ方である。
安倍晋三『美しい国へ』(文春新書 2006)を読む。
内閣総理大臣に就任する直前の内閣官房長官時代の著書である。ずいぶん本棚の肥やしとなっていたが、10年後の検証という意味を込めて手に取ってみた。
政治家が書く本なので、取り巻きのブレーンが執筆しているのであろうが、ことごとく当時良しとした政治の方向性がことごとく外れている。10年前に大絶賛していたイギリスの教育改革は最悪の結末を迎えているし、少子化は全く改善の余地がなく、日本とアジアの関係についても何ら進展がない。
安倍総理と日本会議のメンバーたちは、現状の分析は鋭いが、イデオロギーが前面に出すぎて冷静に将来を占う力には疑問符が付きまとう。
角田光代・穂村弘『異性』(河出書房新社 2012)を読む。
2009年から2年間にわたってウェブマガジン上で掲載され、小説家角田光代さんと、歌人穂村弘氏の往復書簡という形で、男女の恋愛観の違いが綴られている。
自分が主人公の物語の中で、いつまでも変わらない愛の形を要求し続ける女性と、彼女だけでなくあらゆる趣味やものに没頭し、集め、並べることで自分を投影させようとする男性の違いが浮き彫りになっている。
内田康夫『遺骨』(角川文庫 2001)を読む。
四国にある寺に父の遺骨を納骨したいと申し出た、ある薬品会社に勤める男が殺害され、骨壺の行方が分からなくなる場面から始まる。
実はその薬品会社が旧731部隊の幹部が設立した医薬品メーカー「ミドリ十字」を想起させるものであり、骨壷の中には、戦時中の強制労働連行により足尾鉱山で働いていた韓国・朝鮮人たちが、731部隊に実験材料とされた証拠が入っているという、なかなかの社会派ミステリーとなっている。
終戦後の大陸からの帰国時の混乱や、在日朝鮮人の帰還事業なども物語の背景となっており、歴史の闇を切り裂く意欲作である。
謎解きミステリーとしては、あまりにご都合主義的な展開が気になるが、読後感は良かった。