森田敏宏『東大理Ⅲにも受かる7つの法則:難関を乗り越える処方箋』(小学館101新書 2012)を読む。
自ら東大医学部出身で循環器内科医として活躍している著者が、高校生やその保護者向けに、高校卒業後を見据えた課題設定や習慣の大切さについて分かりやすく説明している。後で使いやすいように、気になった部分部分を抜き書きしてみたい。
成功者は高いセルフイメージを持っている。
特に中間試験や期末試験といった学内試験は、難問ばかり出題されるわけではありません。むしろ、基本に忠実な問題が多いのが一般的です。したがって、好成績を取るためには、試験範囲をくまなく勉強し、理解し、記憶する必要があります。いわば満点を目指すために取りこぼしが許されないのです。
ところが、「自分は八〇点くらいで良い」と思っている人は、重箱の隅をつつくような細かい内容まで勉強しません。ですから、満点を目指して徹底的に勉強した人とは、結果に差がついて当然なのです。
学校の試験で解くべき問題というのは、人類の歴史上誰も解いたことのない難問や奇問ではありません。今までに多くの人が繰り返し解いてきた問題なのです。もちろん、記憶力の差や、俗にいう「頭の回転の速さ」等、個人差によって習熟するまでの時間は異なるでしょう。だとしても時間をかけ、繰り返し学習することで多くの人が解ける問題なのです。
ということは、結果を分けているものは、才能の差よりも努力の差であり、努力の差を生み出しているものが、セルフイメージの差だと言えるのです。
やる気を生み出す目標設定の方法 大学合格をゴールにしてはいけない
ここでイソップ物語をもとにした「三人のレンガ職人」という寓話を紹介します。あるところに、三人のレンガ職人がいて、レンガを積む作業をしていました。そこへ通りかかった人が、「あなたは今、何の仕事をしているのですか」という同じ質問を三人にしました。すると一人の職人は、「レンガを積む仕事だよ」とつまらなそうに答えました。二人目の職人は、「壁を作る仕事だよ」と、やはりつまらなそうに答えました。そして、三人目の職人は、「私は学校を建てているんですよ。レンガを一つひとつ積み上げて、それがやがて立派な学校になる。そこで子どもたちが勉強するんです。子どもたちの笑顔を見るために、働いているんですよ」と答えました。
この寓話のように、同じ作業でも明るい未来を想像する人は、仕事の取り組み方がまったく違ってきます。大学合格という「通過点」に先にある明るい未来を想像して、その人なりの目標を設定していただきたいと思います。
なぜイチロー選手は成功したのか?
イチロー選手が(中略)成功できた大きな要因は、多少の好不調の波こそあれ、常に一定のペースを維持できたことにあると、私は考えています。そして、その原動力担っているのは、「毎日、同じことを繰り返す」ということなのです。
彼は渡米してからの七年間、毎日朝食はカレーライスを食べていたそうです。そして、朝、家を出てからグラウンドに出るまで、すべての行動が決まっているのです。同じ道を通って球場に行き、球場に着くと道具の手入れをして、ユニフォームを着て、グラウンドに出ます。ランニング、ストレッチ、キャッチボール、バッティング練習と毎日同じメニューをこなし、同じコンディションでゲームに臨むそうです。
「それを一つひとつこなしていくうちに自然と鈴木一朗からイチローに切り替わる」と彼自身がコメントしています。そして、バッターボックスに入る前、あるいは入ったあとも必ず同じ動作をこなして、ピッチャーと対峙します。
このように、毎日同じことを繰り返すのはつまらないことだとか、無味乾燥だなどと、みなさんは思うのではないでしょうか。ところが、ここに集中力を高める大きな秘密が隠されているのです。
なぜ、毎日同じ動作を繰り返すことによって集中力が高まるのでしょうか。毎日行動パターンが決まっていると、一つひとつの行動する際に迷いがなくなり、あれこれ余計なことを考えずに次の動作に移っていけます。そして、それをすることで条件反射のように徐々に集中力が高まっていくのです。
さらに、もう一つ見落とされがちなのは、毎日同じ動作、同じ練習をしているようでも、実は毎日の積み重ねによって次第にレベルが上がっていくということです。このようなことをわかっているからこそ、イチロー選手は毎日、同じことを続けているのです。
脳は段取りを考えるのが苦手
受験勉強をする場合も、イチロー選手と同じように、毎日の行動パターンを決めてしまうのがベストです。では、なぜ毎日同じ行動パターンをとることにメリットがあるのか、その医学的な理由を考えてみましょう。
仮にあなたが高校生だとします。今日は日曜日で、丸一日勉強しようと決めています。午前中に国語と数学と英語を勉強するとして、どの順番でやるのがいいでしょうか。たった三教科の順番だけでも、六通りもあります。あなたは、それを決めるために頭を悩ませます。英語がやりやすそうだから、先にしようか、それとも難しい数学を先にやるか、でもそれだと時間が足らなくなるかも……。こうして悩んでいる間、あなたの脳はめまぐるしく活動している反面、時間はどんどん過ぎていくだけで、何ら生産的な活動はしていないのです。そして、最終的には、ストレスだけが残ってしまうのです。
ところが、毎回勉強する順番が決まっていたらどうでしょうか。最初は国語、次は英語、最後に数学という具合にです。毎回決まっていれば、迷わず取り組むことができます。結局どの順番でやっても、効果はあまり変わらないのです。それよりも、パターンを決めてしまった方が、条件反射的に勉強に集中できるようになるのです。
このような順番や段取りを覚えておくためには、短期記憶と言って、短期間記憶しておく能力が必要になります。例えば、あなたが買い物に行く時にメモを取らずにすべて覚えて行ったとします。あなたは、いくつまでならお覚えられるでしょうか。
短期的に覚えておける項目は通常七つくらいと言われています。これはアメリカの心理学者ミラーが提唱した説で、「マジカルナンバーセブン」と言われています。意外に思われるかもしれませんが、人間が短期的に記憶しておける項目数は、「7±2」程度しかないのです。
このように短期間だけ、手順や段取りを考えたり、覚えておいたりする脳の働きを、脳科学ではワーキングメモリーと言います。七つしか覚えられないということは、人間の脳は実は段取りが苦手なのです。したがって、あらかじめ予定を決めていないと、「次、何やるんだっけ」とか、「次何やろうか」と、しょっちゅう悩まなければならないのです。(中略)受験勉強する場合には、脳に余計なストレスをかけず、勉強に集中するために、行動のパターン、特に勉強のパターンを固定したほうがいいのです。
毎日全科目勉強するのが理想的
学習するということは、脳内に新しい回路を作り、それを強化することだという話をしました。その観点からすると、回路には頻回に電気を流したほうが好ましいのです。何かを学習する時、脳内では特定の箇所の活動レベルが高まります。いわゆる活性化した状態になります。この活性化する箇所は勉強する科目によって異なります。つまり、英語を勉強している時と、数学を勉強している時では、脳内の異なる回路に電流が流れているのです。したがって、特定の回路ばかり電気を流して、他の回路を全然使わずにいると、使っていない回路は錆びついて、電気が流れなくなってしまうのです。
このような脳の特性を考えると、毎日なるべくすべての科目を勉強したほうがいいでしょう。そうすることによって、各科目に必要な脳の回路を錆びつかせず、徐々に強化していくことができるからです。東大のように、受験に必要な科目が多いと、配点の低い科目を捨てるという人もいますが、わずかな差が合否を分けることもありますから、少しでも点数を積み上げるた目にも、なるべく全科目を勉強したほうがいいでしょう。
問題点を「見える化」する
模擬試験を受けることによって、問題点が見えてきます。英語なら、英文和訳は得意だが和文英訳の点数が低いとか、英単語のボキャブラリーが足りないとか、ヒアリングが弱いといったようにです。受験に必要なすべての科目で、このような自己評価をしていきます。そして、ここで大事なポイントがあります。こうした自己評価や、学習過程における問題点を、頭の中でしまっておくのではなく、書き出すということです。最近の表現で言えば「見える化」です。
(中略)今やっている勉強法、参考書などを書き出します。そして、それをいつまでに終えるかという、おおまかな期間を記入します。模試の時期もわかるようにします。
また、勉強を進めていく過程で、何か問題点があれば、それを書き出していきます。例えば、英単語のボキャブラリーが不足していて、それが英語の成績全体に影響を及ぼしているのであれば、「単語力不足」というふうに記入します。次に、その問題点への対策を考えます。しかし、いい対策をすぐに思いつくとは限りません。ですから、ここで長時間考え込む必要はありません。少し考えて、いい対策が思いつかなければ、とりあえず、そこまでで終了します。
このようなシートを全教科作成し毎朝チェックするようにします。慣れれば、数分から一〇分程度で済みますのでそれほど時間はかかりません。この作業をすることで、問題点が見つかり、志望校合格へ向けての軌道修正が可能となるのです。