田辺聖子『田辺聖子の今昔物語』(角川文庫 1993)を読む。
『今昔物語』の内の、本朝世俗篇から30弱の作品が収録されている。いずれも正確な現代語訳ではなく、「田辺流解釈」であり、貴族や法師と言えども煩悩やら現世欲やらは抑えることができず、「やっぱり人間だもの」といったトーンでまとめられている。
神が人を裁くのではなく、縁が人の人生を操るといった日本の文化に触れたような気がした。
あとがきの言葉が印象に残ったので、書き留めておきたい。
『今昔物語』は人々に仏法を説くための説話集であったともいわれます。善因善果、悪因悪果の因果応報、さらには生者必滅、会者定離の仏教の真理について……。その真理が長大な一篇の物語に凝ると『源氏物語』となり、小さく砕けば『今昔物語』となるのではないでしょうか。尤も、『源氏物語』は説話集ではありませんが、その美しい玉を砕くと、飛び散る一片一片が、『今昔物語』の説話になるのです。