筑波大学大学院教授中村逸郎『ロシアはどこに行くのか:タンデム型デモクラシーの限界』(講談社現代新書 2008)を読む。
地誌学の勉強として読み始めたが、読み終えたのは試験後であった。まあ、試験は北ユーラシアの自然環境だったので、試験前に読み終えてもあまり意味はなかったかもしれない。
話は2000年から2008年までの第2代大統領時代のプーチンの人柄や政策に絞られ、大統領就任後の政治や社会の変化が丁寧に説明されている。
プーチンは強いリーダーシップ像を打ち出しているが、それは「永遠に若いリーダー」として神話化されているレーニンのイメージを意図的に踏襲しているものである。一方、プーチンは旧ソ連共産党から迫害を受けたノーベル賞作家のソルジェニーツィンに国家勲章を授けている。中村氏は、保守派(スラブ的・共産党寄り・独裁主義)と、改革派(西欧的・市場経済・民主主義)の両側面を絶妙に使い分けているバランス感覚に長けている政治家であると評している。しかし、裏金や賄賂、不正工作まみれの選挙によって議会を牛耳るなど、国民の圧倒的支持のもとで、権力の個人集中を進めており、批判した人物が謎の死を遂げるなど、一昔前の開発独裁の側面も指摘される。国内では貧富の差が拡大しており、それもウラル山脈の西側のヨーロッパ地域と、ウラル山脈東側のアジア地域の間で、また、ロシア本国と連邦内共和国の間で、さらには、連邦と周辺の独立共和国の間で、地域や民族の分断を助長する方向で格差が広がっているという実情が、プーチン個人のリーダーシップで糊塗されている。
気になった一節を引用しておきたい。ロシアとヨーロッパの関係について、経済は良いが軍事はダメという方針は、考えてみれば当たり前のことなのだが、日本人はついついそうした関係を単純化してしまう傾向が強いように思う。
(ロシア軍のグルジア侵攻について、米国や西欧諸国が難を示した点について)ロシアからすれば、EUの東方拡大にはそれほどの違和感はない。というのもEUの東方進出はロシアにとってマーケットの拡大を意味し、経済好調を維持する上でのマイナス面は少ないからだ。だが、北大西洋条約機構(NATO)の勢力拡大は我慢できない。
それにしても、1科目50分で3科目の試験は体力的に堪える。帰りの電車ではぐったりとなってしまった。