日別アーカイブ: 2009年2月27日

『殉死』

司馬遼太郎『殉死』(文春文庫 1978)を読む。
明治天皇の大葬の礼の号砲とともに「殉死」した乃木希典の生涯を、司馬遼太郎独特の史観を通して描く。
乃木希典というと日露戦争で活躍した「軍神」というイメージしかなかったが、本書の中で作者は、乃木を軍人としては無能な人物で、陽明学の山鹿素行の著書を愛読し、明治の近代の時代の中で、原理主義的な武道精神を持って生きた変人として描く。軍服を着たまま寝たり、西南の役で軍旗を奪われたことを生涯悔いたり、軍事作戦の失敗をすべて自己責任として引き受け自殺を希求するなど、その奇行ぶりは、むしろ日本人の「判官贔屓」な気持ちを揺さぶり続ける。今で言うところの王貞治のストイックぶりと長嶋茂雄の人間性が合わさったような存在だったのだろう。
「司馬史観」とも称される、歴史上の人物に敬愛を込めて語るスタイルに改めて興味を抱いた。