月別アーカイブ: 2008年7月

『大阪学』

大谷晃一『大阪学』(経営書院 1994)を読む。
現在の大阪を象徴する不法駐車や信号無視、吉本興業やダイエー、きつねうどんなどの合理的でせわしいながらも人間臭さののこるものを取り上げ、それらが大阪が歴史的に育んできた文化だと立証する。
楠木正成や信長、秀吉といった政治家や、井原西鶴や上田秋成、それに続く宇野浩二や武田麟太郎などの文学者たちの生き様を、筆者は「大阪」を切り口に丁寧に語る。それぞれ活躍した時代もフィールドも違うが、彼らには共通して、合理主義的な精神と幕府や公家、東京に対する反権威的なものの見かた、そして、あくまでも実践的な判断に基づく行動力があると定義づける。合理的に物事を進めようとする結果の不法駐車や、アンチ東京をテーゼとしてきた吉本興業、現場から商法を展開してきたダイエーなどは、大阪の歴史的な文化が現在においても健在であることの証左である。

『東京タワー』

安原直樹『東京タワー』(新風舎 2005)を読む。
都内各所から見られる東京タワーの写真集である。
六本木ヒルズを背にしたり、レインボーブリッジ越しに、結婚式を見下ろすように、また都庁ビルの最上階からなど都内あちこちから東京のシンボルである東京タワーの姿を切り取る。武骨な電波塔に過ぎない東京タワーであるが、そのアングルと背景によって大きくその表情を変える。時にはエレガントに、時には燃えるような顔を我々に見せる。六本木ヒルズが無機質なままで東京を受け入れない一方で、東京タワーはすっかり戦後経済成長の情熱に染まったようである。

□ 安原直樹 公式ホームページ □

『鍋の中』

村田喜代子短編集『鍋の中』(文藝春秋 1987)を読む。
第97回芥川賞を受賞した表題作の外、作者の初期の頃の3編の小説が収録されている。仕事に忙殺される中で、ちょこちょこと中断しながら読んだためか、作品の世界観があまり印象に残らなかった。風景描写は大変丁寧なのであるが、主人公の心理描写が少なく感情移入できなかったためなのか。ストレスで私自身の感受性が低下したためなのか。