『WTO:世界貿易のゆくえと日本の選択』

村上直久『WTO:世界貿易のゆくえと日本の選択』(平凡社新書 2001)を読む。
著者は、基本的に自由貿易体制を擁護しており、グローバル経済の進展が、世界の貧困を減らし、限りある農産物の効率的活用や雇用の安定、引いては環境保全や世界平和に寄与するものだとするWTOの公式見解に賛同する者である。「自由貿易はそれ自体では人々に福祉の増大をもたらすことはない。それはまた、多国籍企業を富ませ、地球環境を破壊するだけでもない。競争を促進し、所得格差を狭め、何百万人もの人々にチャンスを与える」と指摘した英エコノミスト誌の論文を参照しながら、著者は自由で円滑な貿易体制の恩恵を受け、経済成長することこそが貧困から脱出する道だと断じる。

しかし、著者はこうした自由貿易の枠組みに対して一番わがままなのが米国であると指摘する。一般にWTOは米国の自由競争市場主義を世界に敷延するための仕組みだと考えがちである。しかし、開発途上国には例外なき市場の開放を迫る一方で、米国やヨーロッパ、そして日本も国内の産業や農業を守るための保護主義に傾きがちであるのが内実のようだ。米国・EU・東アジアなどの先進国を中心とした排外的な貿易圏でブロック化するのではなく、世界の150カ国に開かれた公正で透明なルールで運営されるWTOの管轄の下で貿易交渉を行なうべきだと著者は論じる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください