月別アーカイブ: 2005年11月

『おろかな日々』

椎名誠『おろかな日々』(文藝春秋 1993)を読む。
「自由奔放」を地で行く著者椎名氏が日々の旅行や雑事を綴ったエッセーである。土佐のカツオの話にしても、ホテルに缶詰めの話にしても、人柄が滲み出ているような文章になっていて、彼なりの清明な世界観とせわしない東京の現実生活とのギャップに対する違和感が垣間見える。

『「私立」の仕事』

佐山一郎『「私立」の仕事』(筑摩書房 1991)を読む。
運命共同体である会社組織や平等を強いられる学校社会を脱して、「自分らしく」生きようとする人々へのインタビューで構成されている。当時立ち上がったばかりのJ-WAVEでミュージックナビゲーターを務めるジョン・カビラ氏や、「桃太郎電鉄」を制作したさくまあきら氏、12年間サラリーマン生活との二足のわらじをはき続けた「GONTITI」のTiTi松村などの当時30代の「冒険者」たちが、自身の労働観や業界に対する思いを語っている。
著者は、そうした転職・転機をうまく活かして自分の地位を築いた人たちを「私立」と名付けて、次のように定義している。

産業的価値を画一的に生活様式へ組み込むことに批評的な社会の訪れを予感するにやぶさかでない、来るべき明日の見極めへのより強い意志が「私立」にはあるように考えられます。クールな情熱と内省の匂いがします。

『超爆笑大問題』

爆笑問題『超爆笑大問題』(講談社 2000)を読む。
札幌テレビ放送が制作した「号外!! 爆笑大問題」という番組を書籍化したものである。フランスワールドカップや橋本首相、小渕首相についての記事を元に、太田と田中のお馴染みの掛け合いでネタが展開されている。テレビ番組を再構成したもののためか、彼らの十八番の「毒舌」は影を潜めている。現在もテレビで引っ張りだこの爆笑問題であるが、深夜のラジオ番組辺りで思いっきり社会批判や芸能界批評をしている方が、彼らの激辛な持ち味が発揮できるのではないだろうか。

『ALWAYS:三丁目の夕日』

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山崎貴監督『ALWAYS:三丁目の夕日』(2005 東宝)を観に行った。
携帯もパソコンもテレビもなかった昭和33年(1958年)の東京を舞台に暖かい人間ドラマが繰り広げられる。東京タワーの建設と三種の神器(冷蔵庫・洗濯機・白黒テレビ)に象徴されるように、「もはや『戦後』でない」新しい時代をたくましく生き抜く団塊の世代の少年時代がディテール細かに描かれている。近所の人々が皆集まってテレビの力道山を応援したり、放課後公園に子どもたちが集まって遊んだり、高度経済成長の中で国の発展と会社の成長を重ね合わせたり、今では少し信じられないような生活がそこにはあったのだ。
主役を務める吉岡秀隆が良い味を出している。人生に行き詰まって悲嘆の涙を流してしまう情けない男を「カッコよく」演じられるのは、日本では彼しかいないだろう。
フラフープや電気冷蔵庫、東京を走るチンチン電車などが、CGによる合成技術により鮮やかに再現されている。そうした映像を観るだけでも面白い。

『秘密:人妻と風俗嬢、二つの顔を持つ女たち』

酒井あゆみ『秘密:人妻と風俗嬢、二つの顔を持つ女たち』(幻冬舎 1999)を読む。
18歳から様々な風俗を経験した著者が、性感ヘルスやSMクラブ、ソープランドで働く既婚女性の仕事観や家庭観を包み隠さず訊き出している。倒産によるショックなどですっかり働く気力を失ってしまう男性に対して、風俗という土壇場で体を売って働く女性の粘り、精神的・肉体的痛みを積極的に生活力に替えてしまう女性の強さが垣間見えて来る。風俗というまさに裸の付き合いを強いられる仕事ほど人間の本性が見えてくるものだと改めて実感した。