吉川英治文学新人賞を受賞した浅田次郎『地下鉄に乗って』(講談社文庫)を読んだ。
久々に面白い小説だった。永田町の地下鉄駅の階段を上がると、30年前にタイムスリップをしてしまうというSF的な小説なのだが、過去の世界で出会う父親の生き様に触れることで、主人公の真次の現在の家族観が大きく揺らいでいくのだ。最後は主人公の彼女であるみち子の恋人を思う一途な「自殺」で終わるラブロマンスに仕立て上げられている。読み終わって内容を振り返るに、タイムスリップという超常現象を間近に体験する真次とみち子、それを間接的に聞く上司や家族、そしてすべてを見越した老人のっぺいの三者の視点が複層的に絡んでくる計算されつくした展開に改めて気付いた次第である。
『地下鉄に乗って』
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