唯川惠『恋人たちの誤算』(新潮文庫〉を読んだ。
ハッピーエンドではない恋物語であり、会話のない二人の間を埋める気持ちの探り合いが真に迫っており面白い作品だった。特に婚約を直前に破棄して飛び出してきた侑里と透の生活のすれ違いは読者の興味を引かせる。結婚を前提としてつき合い始めた二人だったが、段々気持ちが離れていき、侑里は段々精神的に変調を来してくる。しかしデパートに行き、シャツやらバッグやら手当たり次第に買うと気持ちが落ち着き、会話の全く無い透との生活にも耐えられるのだ。そしてそれらの商品は一度も使われることなく押し入れの段ボールにしまい込まれる。その点の病的な心理ー逃避ー描写が畳みかけるように読者に伝わってくる。
侑里は黙って段ボールを抱き締めていた。何も考えない、何も言わない、という方法を見つけた時、これでいいと思った。これで透と穏やかに暮らしていけるなら、感情というものを全て捨ててしまっても構わない。実際、その方法は成功したかのように思われた。しかし身体の内側は錆びついていた。侑里はだんだんと息苦しくなっていた。何とかしなければと思った。でないと、貯め込んでいたものを一気に吐き出してしまうかもしれない。そうしたら、すべてはおしまいだ。
今、よくわかる
このモノたちは、侑里が言えなかった言葉の代償だ。ワンピースは「昨夜どこに行ってたの?」、バッグは「いつになったら両親に挨拶にゆくの?」、スーツは「女がいるの?」、イヤリングは「私たち、これからどうなるの?」
けれど、もう駄目だ。このままだったら、私たちは本当に駄目になってしまう。今まで、回りの誰もに幸福を装って来たけど、もう限界だ。救けが欲しかった。