読書」カテゴリーアーカイブ

『うめ婆行状記』

宇江佐真理『うめ婆行状記』(朝日新聞出版 2016)を読む。
江戸時代の日本橋界隈を舞台にした人情物の小説である。最初手にした時は全く気に乗らなかった本であるが、数ページ読んだだけで、主人公のうめ婆にどんどん惹き込まれていった。最後の方では、うめ婆の注意や人生観がグサグサと刺さってきた。江戸時代の武家だけでなく商家でも、女性という立場の生きにくさをモチーフにしているのだが、うめ婆は一人の女性として率直に嬉しいこと嬉しいといい、ダメなことは徹底してだめという。時代を超えて素直に生きるということが素晴らしいことなんだと著者は訴える。

本書は2016年1月から朝日新聞夕刊に連載されていた小説である。しかし途中で著者が乳癌で亡くなったため、未完のままとなっている。著者の宇江佐さんは1949年の団塊世代である。兄弟・親戚で溢れていた団塊世代ならではの人付き合いの経験が作品にも色濃く滲み出ている。

1年に1回あるかないかの素晴らしい読書体験だった。

『ニムロッド』

第160回芥川賞受賞作、上田岳弘『ニムロッド』(講談社 2019)を読む。
仮想通貨に関する話で、資本主義そのものを象徴した仮想通貨の空虚な実態と社会全体を覆う虚無感がテーマとなっている。芥川賞を受賞し、選考委員もベタ褒めなのだが、意味が分からなかった。全く感情移入できないまま、ただ文字を目で追っただけ。

『贅沢貧乏のマリア』

群ようこ『贅沢貧乏のマリア』(角川書店 1996)を読む。
群ようこさんの本を読むのも10数年ぶりのような気がする。この本は著者自身の家族や生活の一コマを起点に、文豪・森鴎外の娘の森茉莉の自由奔放な生き方を照射するという意欲作となっている。

森鴎外には長男・於菟(おと)、長女・茉莉(まり)、次女・杏奴(あんぬ)、次男・不律(ふりつ)、三男・類(るい)の5人の子どもがいる。長男の於菟は先妻(といっても1年半の生活だが)との子どもで、次男の不律は生後すぐに亡くなっている。長女の茉莉は鴎外の再婚相手との最初の子どもである。森鴎外の育て方なのかどうか分からないが、茉莉はおよそ当時の日本の淑徳を規範とした女性の生き方には馴染めず、周囲との誤解が相当あったようだ。裁縫や育児を徹底して嫌い、パリジェンヌに憧れお洒落を求める姿など、最近のお騒がせ芸能人のような振る舞いである。

群ようこさんは、そうした森茉莉のお人形さんのような人生を、尊敬と共感をもって描き出す。

『正直な娘』

唯野未歩子『正直な娘』(マガジンハウス 2007)を読む。
小中高一貫校に通う秋子の高校1年生の1年間の青春が描かれる。カッコよく宣伝文句を作るならば、大学生との恋愛や友人の妊娠、自殺未遂などを通して、記号化された世界の中で自分を探し、都合が優先する大人の世界を垣間見る物語となるであろうか。
でも中身は、一時期流行していたケータイ小説とよく似た内容であった。女性ならば共感する場面も多々あるであろうが、おじさんが読んでも何の感想もなかった。

『二十面相の呪い』

江戸川乱歩『二十面相の呪い』(ポプラ社 1970)を半分読む。
表題作の他、『黄金の虎』の2編が収録されている。『二十面相〜』の方だけ読んで、パターンが同じなので飽きてしまった。被害者の家から警察に電話をする際に、電話線が途中で切られており、犯人グループの電話に繋がるくだりなど、時代を感じる設定もあった。