『風の又三郎』

宮沢賢治短編集『風の又三郎』(角川文庫)を読む。
残念ながら表題作の「風の又三郎」はあまり面白くなかった。しかしその中で原稿用紙数枚の短編である「祭の晩」(1924年発表)が興味深かった。簡単にあらすじをいうと、ある秋の祭りの晩に掛茶屋である男が団子のお金がなくて店の主人からこっぴどく責められる。男は薪百把持ってくるからと謝っても店の主人は納得しない。そこへ通りかかった亮二がお金を払って事無きを得る。その晩亮二のお爺さんがその男の話を聞き、「山男」だと話をしている時に、外で大きな音がして、出てみると家の前に薪が積み上がっていたという恩返しの話である。この中でつい見逃しがちであるが、「山男」という単語が気になった。この作品に登場する心優しい山男の姿は、柳田国男の『遠野物語』(1910年刊行)で伝えられる異様な山男像に対するアンチである。

三角寛の作品に山窩(サンカ)が多く登場するが、詳しくは 沖浦和光<「サンカ」は日本文化の地下伏流>を参照下さい。

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