『読書力』

齋藤孝『読書力』(岩波新書 2002)を読む。
内容としては特に深いわけでも、目新しいものもないのだが、読書離れが指摘される中、同意できる点が数多くあった。著書にもなった「三色ボールペン」による読書方法を通じて、生活の中で会話や思考力の向上としての読書のあり方を提言する。

読書は、もちろん知性や情感を磨くものでもあるが、同時に、複数の優れた他者を自分の中にすまわせることでもある。情報を手に入れることだけが、読書の主目的ではない。生身の人間の価値観を自分の中に取り入れ、自分の幅を広げていく。凝り固まった狭い考えに閉じこもらずに、優れた価値観を様々に受け入れる。そうした作業を地道に続けることで、社会常識から隔絶した孤立的な空想に陥ることを防ぐことができる。もちろん本によっては、犯罪につながるような空想を喚起するようなものもある。その意味では、本にまったく毒がないとは言い切れない。自殺の仕方や殺人の方法までを書いた本が出ているくらいだ。しかし、ここで強調したい読書は、そのような種類の本のことではない。十分に幅広い読書をしていれば、そのような本を絶対視することも少なくなる。

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