『バカの壁』

 遅ればせながら、養老孟司『バカの壁』(新潮新書 2003)を読んだ。
 話としては特に目新しいこともなかった。先月に大脳の機能に関する本を10冊近く読んでいたので、楽しく読むことができた。社会と人間の関わりという諸学問のすべてを概観する「脳社会学」の立場で人間を分析していく。途中気になる表現も多かったが、バランスがうまく取れていた。特に文系向けの脳に関する本では、この「バランスを取る」ということが難しい。

 (イラクかアメリカかといった一元論的な思考をする人の例を紹介)この辺の硬直性を見ると、考え方が戦前に近くなっている人が増えているような気がする。一神教的な考え方は日本の中だってたくさんあります。例えば戦時中の八紘一宇、世界を天皇を頂点とした一つの家と考える、なんて考え方は、その代表例です。ついこの間それをやって、こりごりしているはずなのに、また一元論で行くのか、と思う。
 天皇制だって、昭和の初年ぐらいまでは、その後の太平洋戦争中ほど絶対化されたものだったとは思えない。天皇を国の一機関として捉える天皇機関説なんてものがあってくらいですから。ところが、戦争が始まってから、どんどん神格化されていった。
 その頃のことを考えれば一番分かり易いのですが、原理主義が育つ土壌というものがあります。楽をしたくなると、どうしても出切るだけ脳の中の係数を固定化したくなる。それは一元論の方が楽で、思考停止状況が一番気持ちいいから。

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