『田辺聖子の古事記』

田辺聖子『田辺聖子の古事記』(集英社文庫1991)を読む。
古事記を天皇崇拝のものだとする国粋主義的読み方を否定し、人間の悲哀や男女の恋愛を描いたヒューマンストーリー、ラブストーリーだと割り切って、彼女ならではの解釈を加えた意訳を試みている。改めて古事記を読み返してみて、その人間性のにじみ出た話の展開に意外な感じがした。
確か10年前に大学の授業で受けた時は遅々として授業は進まず、ひたすら眠かったのを覚えている。そして、ふと解説を読むと、私の大学の先輩にあたる萩原規子さんの「教授は、上巻冒頭の神々の系譜を示し、その一柱一柱の神の名前の、おそろしくていねいな読み解きからはじめた。それは延々と続き、1年間で上巻の半分までも進まなかった。退屈でなかったといったらうそになる」との一節が目に入った。まさしく10年前の私をも深い心地よい眠りに誘ったT教授の授業風景が書かれているではないか。すでに退職されたとのことだが、あの子守唄をまた聞きたいものだ。

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