『イスラム国の正体』

国枝昌樹『イスラム国の正体』(朝日新書,2015)を読む。
10年前に刊行された本で、当時ニュースを賑わせていたイスラム国の実態や伸長した背景について分かりやすく解説されている。最近はイラクで部族の大連立のスーダーニー政権が発足し、シリア内戦も落ち着きを見せ、内戦に乗じて勢力を伸ばしたイスラム国も影響が落ちている。

イスラム国はスンニ派の過激派である。本書の中でイスラム教の派閥について解説があるので、まとめておきたい。

  • ムスリムは世界で約16億人。ムスリムとは「イスラム教の教えに帰依した者」という意味である。イスラムは本来「服従」「帰依」という意味で、服従し帰依する主は唯一神アッラーである。
  • イスラム教徒16億人のうち、スンニ派が約84%、シーア派が14%と言われている。その違いは第4代カリフのアリーの後継者に起因する。「スンニ(慣行)」を重視する人たちは、これまで通り仲間たちによる選挙でカリフを選ぼうとした。一方、血筋を重視して「シーア(党派)」を組み、アリーの親族を選ぼうとしたのがシーア派である。信仰の上で両派の違いが顕著なのは「偶像崇拝」に対する考え方と言われる。スンニ派はこれを強く忌避するが、シーア派はあまり気にしない。イランでは街頭に指導者の大きな顔写真が張り出されたりしている。イスラム国はこうしたシーア派の信仰対象を次々と破壊してきた。
  • シリアのアラウィ派(シーア派)の人たちはスンニ派のモスクで一緒にお祈りするなど、大半のイスラム教徒は宗派に関わらず穏やかに共存している。
  • イスラム国は7世紀のアリーまでの「正統カリフ時代」を理想像としており、本来国境のない一つのイスラム教国を目指している。そのため、第一次世界大戦中に、イギリス・フランス・ロシアの3カ国が結んだ密約「サイクス・ピコ協定」(オスマン帝国の分割支配)に強く反発している。