「自由と自治の砦に迫る 存続の危機 京大・吉田寮の日常を映画に」

本日の東京新聞夕刊より転載
大学時代に訪れた吉田寮での風景と体験がよみがえる。
館内放送でデモが呼びかけられ、無届けで商店街を練り歩いた。1泊しただけだったが、新鮮な体験で20年以上経った今でも印象に残っている。


 

現存する国内最古の学生自治寮で退寮問題に揺れる「京都大吉田寮」(京都市)を描いたドキュメンタリー映画の製作が進んでいる。監督を務める映像作家の藤川佳三さん(50)=横浜市在住=は「権力や地位のある人の言うことを受け入れる風潮がある中で、とことん議論して自分たちで決める寮の『自由と自治の文化』を知ってほしい」と話している。 (石原真樹)

廊下にこんろを置き、中華風の炒め物を作ってみんなで朝ご飯を食べたり、中庭で飼うニワトリの世話をしたり…。藤川さんのカメラは、思い思いに過ごす寮生たちの日常を追う。

藤川さんは寮の魅力を「議論すること」と語る。例えば寮内での喫煙。受動喫煙が「健康に悪いから駄目」とすぐに結論付けず、吸いたい人の気持ちも尊重する解決策がないかを徹底的に話し合う。「『吸う時にその場で確認すればよいのでは』など、一般論ではない考えが出てくる。大事なことだと思う」

藤川さんは中央大の学生だった1989年、京都大でライブを見た際に初めて吉田寮を訪ねた。古い建物と自由な雰囲気が印象に残ったという。2016年にプロデューサーとして関わった映画「菊とギロチン」の撮影時も遊びに出掛けた。

ところが大学側は2017年、老朽化を理由に退寮を要求した。「吉田寮には民主主義を考えるヒントがある」と思っていた藤川さんは、貴重な場がなくなるかもしれないと危機感を持ち、昨年5月にドキュメンタリー映画の製作を決めた。

寮の運営を担う自治会は退寮に応じず、話し合いでの解決を模索する。しかし大学側は昨年12月、建物明け渡しの前段階となり得る占有移転禁止の仮処分を京都地裁に申し立て、地裁が仮処分を今月執行した。撮影では、大学側と寮生との交渉の様子も捉える。

撮影は終了し、今春の完成を目指している。製作費を募るクラウドファンディング(https://motion-gallery.net/projects/yoshidaryou)を二月十二日まで実施している。

吉田寮を紹介する写真展「百年の光跡」も開催する。今月24~27日に横浜市中区の横浜パラダイス会館で、2月1~11日には東京都台東区の「イリヤプラスカフェ カスタム倉庫」で。2月10日は同カフェで元寮生らを招いたトークイベントもある。問い合わせは藤川さん=電090(4662)8478=へ。

<吉田寮> 現在も使われている国内最古の学生自治寮。1913年建設の現棟と2015年建設の新棟、食堂からなる。入寮者の選考や寮の運営は、寮生による自治会が担当。性別や国籍、年齢を問わず、月2500円の寮費で生活できる。寮生は現在約100人で、うち3割程度は女性。