『日本は「侵略国家」ではない』

渡部昇一・田母神俊雄『日本は「侵略国家」ではない』(海竜社 2008)を読む。
10年前のものであるが、話題を振りまいた本である。元航空幕僚長の田母神氏は、張作霖爆殺事件はコミンテルンの仕業であり、コミンテルンに操られた蒋介石によって泥沼化した日中戦争に引きずり込まれ、果てはコミンテルンに動かされたアメリカによって自虐的な東京裁判史観を植え付けられたと主張する。

この陰謀論に凝り固まった鼻くそレベルの論文を巡って起こったマスコミの反応や識者の異論について、昨年亡くなられた渡辺昇一氏が高所から物申すという内容になっている。批判を煽るような極論を吐いて、それに対する反論を揶揄するという手法は、小林よしのり氏の「ゴーマニズム宣言」を思い返させる。

本日の東京新聞朝刊のコラムで、シンガーソングライターの泉谷しげる氏は次のように述べる。

 例の「LGBTは生産性がない」っていう暴言は、炎上狙いみたいなところもあって、どうやって関心を持たせるかって考えたのかな。過激なことを書いた方が読まれるだろうと。「私すごいこと言うでしょ」って、自己顕示に近いんじゃないかな。彼女は半分ぐらいの人は賛成してくれると思ったかもしれない。でも計算違いだった。それでも自分は絶対に正しいと思うなら反論しないと。隠れちゃうんだもんな。無責任だよ。
彼女の言っていることは精神的な虐殺ですよ。用のないやつを切り捨てよう、排除しようという思想につながるから。それは社会的に不都合な感情なんだと気付かないと行けない。もしかしたら人間には、心のどこかにLGBTとか障害者に対する差別意識があるかもしれない。だけど、それを乗り越えていくのが人間の知恵であり、知力だよな。生理的な本音のままじゃ駄目なんですよ。

田母神氏も泉谷氏の指摘する自己顕示にハマっているのであろうか。むしろ、田母神氏を利用しながら、国民の無知蒙昧を喧伝する渡辺氏の方が質(たち)が悪い。