『マルチメディア』

西垣通『マルチメディア』(岩波新書)を読んだ。
古い本なので、書き出しはCDロム搭載のマルチメディアパソコンの現状に関する話題であるが、後半はパソコンというものが個人の能力拡張をベースに発想されているものであり、そこには個人が神の理性を分有するミニ神様だ」という近代ヨーロッパのモダニズムがあるといったように文化的事項にまで話が進んでいく。近代ヨーロッパのモダニズムは感性を支配下に置く理性の賛歌であった。昨今登場してきたマルチメディアパソコンは人間の感性を多分に刺激するものであり、そうしたパソコンを扱うユーザーはより理性的であらねばならないというのがこの本の主旨であった。

しかしこの本を読みがらいろいろな感想を持った。これまで私たちは文字をベースにして様々なことを考察してきた。そして言葉にして意見を表明し、文字・言葉でもって批判を加えてきた。それがこれからは個人レベルで手軽に絵や音で意見を表わすことができるようになるというのだ。
3年程前に漫画家小林よしのり氏が雑誌「SAPIO」に連載中の『ゴーマニズム宣言』という漫画で歴史認識論争に加わった際に、漫画ゆえに相手の批判する余地を与えなかったことがあった。その当時から更にパソコンの普及率が上がり、絵や動画、効果音を利用したプレゼンテーション用のアプリケーションソフトも充実してきた。権力を持つ側が今後これらのツールを利用し始めるとなると、それを批判する側はますます難しさを感じるようになるのではないか。

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