西村京太郎『紀勢本線殺人事件』(光文社 1991)を読む。
読みやすい文体で、テンポよく話が連続殺人事件が展開していくので、一気に読んでしまった。しかし、話としては出来すぎており、警部と一緒に事件を考えるような「間」がなく、印象に残るような作品ではなかった。
ここ最近、伊勢・志摩・南紀の地理に詳しくなりたいと思い、地名を含んだ旅情ミステリーを手当り次第に読んでいる。しかし、読めば読むほど、東京の出版社側の、有名な観光地の名前を並べただけの、安易な企画の思惑が見えてきてしまう。今回の作品も、タイトルに「紀勢本線」とあるが、松本清張の作品のように、時刻表の隙を狙うようなトリックやその土地に根ざした暗い背景があるわけでもない。こうした「地名+殺人事件」シリーズは、たまにはいつもの満員の通勤電車の車窓とは異なる景色を見たいと願うサラリーマンの気晴らしであって、集中して連続してよむべき本ではないのであろう。