月別アーカイブ: 2023年9月

『子どもの涙』

徐京植『子どもの涙:ある在日朝鮮人の読書遍歴』(柏書房 1995)をさらっと読む。
早稲田大学文学部を卒業し、法政大学や立教大学で教壇に立ってきた、文芸評論家の徐京植さんの読書体験や兄弟の話、1960年代の朝鮮人の境遇などが語られる。

中野重治についても触れられていて嬉しかった。一部を引用しておきたい。

中野重治は、魯迅を読むと「自分もまたいい人間になろう、自分もまたまっすぐな人間になろう、どうしてもなろう」「一身の利害、利己ということを振りすてて、圧迫や困難、陰謀家たちの奸計に出くわしたとしても、それを凌いでどこまでも進もう、孤立して包囲されても戦おう、という気に自然になる。そこへ行く」と書いている。
それを見てわたしは、ああ、いかにも中野重治らしいな、ほんとうにそのとおりだな、と思うのである。

また、著者は早稲田大学の学生時代に、在日韓国人サークルに入ったと述べている。かつて3号館地下にあった、あのサークルであろうか。在日朝鮮人のサークルと同じフロアーの隣にあった、あのサークルボックスであろうか。

『黒い魔女』

江戸川乱歩『黒い魔女』(ポプラ社 1970)を読む。
家にある江戸川乱歩シリーズの最後の一冊であった。怪人二十面相シリーズではないのだが、最後は、明智小五郎が敵の子分に化けて、敵のアジトに侵入するという設定で興醒めであった。

もう、江戸川乱歩の小説を読むことはないであろうが、小学生の読書体験を追体験するのは、まあ良かったのではないか。

『君たちはどう生きるか』

本日、春日部のイオンで、宮崎駿原作・脚本・監督『君たちはどう生きるか』(2023 東宝)を観た。
本当は別の映画が観たかったのだが、時間が合わず、ふらっと前から気になっていた本作を観ることにした。同監督作品の『ハウルの動く城』のように、荒唐無稽な世界に一気に飛び込んで、どんどんと話が展開していくのだが、世界観の枠組みに関する話が少なく、置いてきぼり感を感じた。

宮崎監督のこれまでの作品のオマージュのような場面が数多く出てきた。「ジブリ飯」とも称される、腹一杯になりそうなパンやスープも登場するが、明らかに狙っている登場の仕方であった。ネット上でも賛否両論とあるが、なるほどと思う。

日本学術会議公開シンポジウム「ようこそ社会水文学へ」

本日、日本学術会議の公開シンポジウム「ようこそ社会水文学へ 水と社会の相互作用を考える」にズームで参加した。
まず、水文学とは、海水が蒸発し、雲ができて雨や雪が降り、土に染みこみ、川や地下水となり、再び海に流れ出るという、地球上の水の循環について研究する学問である。それに社会が加わることで、災害や水資源など、人間社会との関わりを分離融合の学際型で研究するのが社会水文学である。ざっくりまとめると水文学は地球科学や土木工学の分野に属するのに対し、社会水文学は、人口増加や旱魃、住民自治、水に対する信仰、川や橋の歴史的文化的価値など社会科学や人文科学の分野からもアプローチされている。

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『幽鬼の塔』

江戸川乱歩『幽鬼の塔』(ポプラ社 1973)を読む。
インチキな変装やマジックもなく、殺人事件を犯してしまった男たちの生き様を描いており、最後まで飽きることがなかった。