月別アーカイブ: 2020年8月

『過剰な二人』

林真理子×見城徹『過剰な二人』(講談社 2015)を読む。
幻冬舎の創業者で、かつて角川書店で辣腕編集者として名をなした見城氏と、直木賞作家の話真理子さんの往復書簡集となっている。幻冬舎代表の本を他社の講談社から出ているのは、色々と大人の事情があるのだろう。

林真理子さんは次のように述べる。

私が小説を書くのは、少女の頃に培った妄想力があるからです。もし私が、現実で満たされていたら、おそらく作家になっていなかったと思います。でも、妄想力は作家に限らず、あらゆる仕事に必要ではないでしょうか。妄想力は現実に対する不満によって育まれます。それがあるからこそ、現状を変え、自己実現ができるのだと思います。

また、見城氏は次のように述べる。

今考えれば、僕のやったこと(営業や印刷、経理のことなど何も分からないまま、幻冬舎を立ち上げたこと)は、暗闇の中で100メートル先にある針の穴に糸を通すようなことである。これは自慢ではなく、素直に思うことだ。もう一度同じことをやれと言われても、絶対に無理である。それぐらい圧倒的努力をした。
「無知であること」は大事なことだ。それは業界の常識にとらわれないことである。だからこそ、不可能を可能にするのだ。
何か新しいことを始めようとする時、研究するばかりが能ではない。無知は、それ自体素晴らしい力になるのだ。

「香港・周庭氏に有罪判決」

本日の東京新聞朝刊に、香港の民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんが、先月施行された「国家安全維持法」によって有罪判決を言い渡されたの記事が掲載されていた。罪状は無許可集会に参加したなどである。

彼女は日本への留学経験こそないものの、日本のアニメやアイドルが大好きで、アニメのセリフから独学で日本語を学んでいる。日本記者クラブでの会見の様子などの動画も公開されているので、気になる人は見てほしい。分散登校中だったので、全員ではないが、6月の授業中にも紹介している。

記事によると、量刑は12月に発表とのことだが、おそらくは刑務所に収監されることになるであろう。中国政府は、ウイグル自治区やチベット自治区と同様に、香港の独立を徹底して押さえ込もうとするので、民主化運動のアイドルである彼女にも相当の量刑を用意するであろう。

おそらくは次回の公判前に、英国への亡命などのアクションをとるのであろう。せっかく彼女は日本語がペラペラなのだから、日本に来れば良いと思うのだが、日本は政治的亡命をほとんど受け入れていない。日本の総領事館は香港の中心部にあるので、歩いてでも亡命することは可能であるのに。こういう時こそ日本政府の英断を期待したいところだが、憲法53条すら無視して臨時国会すら開かない与党に期待をかけるだけ無駄か。

「南シナ海 米中にらみ合い」

本日の東京新聞朝刊国際面に、南シナ海での米中の緊張が報じられていた。
記事によると、ベトナム沖の西沙諸島や、フィリピンやマレーシアなどが領有を主張している南沙諸島周辺で、中国軍が軍事演習や偵察活動を活発化させている。一方、中国軍の活動に現実的に対応できるのは米軍しかいないので、台湾などは米軍と歩調を合わせ、東沙諸島で駐留部隊の増強を図っている。

地理の授業で扱ったが、中国は習近平体制以後、「一帯一路」経済圏構想に基づき、中央アジアやインド洋での貿易をより活発化、安定化させていくために、周辺での軍事圧力を強化している。つまり、国家が貿易を支援するということは、軍事的な圧力を行使するということである。

世界史の授業でイギリス東インド会社やオランダ東インド会社を扱ったが、これらは純粋な貿易の企業ではない。軍隊が出動し、アジア一帯を制圧し、航路の安全を確保した後に、進出していって、中継貿易や三角貿易に乗り出していく会社である。その後の南アジア、東アジアがどのような悲哀を味わったのか、2学期以降の世界史の授業で追ってみたい。現在の中国が「軍事+貿易」という構想を手放さない限り、今度はアフリカ諸国が同じような歴史を辿っていくのかもしれない。