内田康夫『北の街物語』(中公文庫 2016)を読む。
2015年に刊行された本の文庫化である。「北の街」と題されているが、北海道ではなく、東京都北区が舞台となっている。
作者の内田氏は2018年に亡くなっているので、数多い浅見光彦シリーズでも、最晩年に近い作品となっている。話の展開も唐突で、冒頭の殺人事件の犯人が最後数ページになって初めて物語上に登場してしまう。「いったいこれまでの展開は何なんだ!」と突っ込みを入れずにはいられない内容となっている。作者のデビュー当時の切れ味は、残念ながらこの作品から微塵も感じることはできない。
大宮競輪場が物語に登場するのだが、その由来が興味深かった。
大宮競輪場の正式名称は「大宮公園陸上競技場兼双輪場」といい、1939年に完成している。そして、珍しいことに競輪用の急角度のバンクの内側に、400メートルの陸上競技用のトラックが併設されている。もともと大宮競輪場は、1940年の東京オリンピックのために作られた施設で、陸上競技トラックの外側に500メートルの自転車競技用のトラックがあり、1949年になってから外側トラックに傾斜をつけて競輪場となったという経緯を辿る。そのため、競輪が開催されていない時は、陸上競技場として利用されている。
ミステリーは面白くなかったが、このエピソードを知ることができただけでも読む価値はあった。