石井彰『エネルギー論争の盲点:天然ガスと分散化が日本を救う』(NHK出版新書 2011)を読む。
原子力発電の危険性やコスト高について明確に批判する一方、太陽光や風力発電以外を認めようとしない環境派の意見に対しては、現状を見ていない机上の空論だと断じる。その上で、今後の日本のエネルギー政策について、石炭火力発電や原子力発電のウェイトを下げ、天然ガスを中心に再生可能エネルギーを組み合わせた、コストと環境負荷を両天秤にかけた形を提案する
確かに天然ガスも地球温暖化の主因である化石燃料の一つである。しかし、天然ガス発電は、ガスタービンからの排気でもう一度発電を繰り返すコンバインドサイクルの技術が標準化されており、従来型の石炭発電に比べ1.5倍も発電効率が良い。つまり、CO2の排出量は3文の2に削減される。また、天然ガスは原油に比べ、世界各地に点在しており、今後400年ほどの埋蔵量が確認されている。
著者は、鄧小平の「白いネコでも黒いネコでもネズミを取ってくるのがいいネコだ」という言葉を引用し、原子力と再生可能エネルギーの論争を越えて、現状より環境によく、コストや安全性も考慮した妥協案を主張する。
最後に著者は次のような例え話で締めくくる。
天然ガスを野球にたとえれば、ホームランは少ないが、三振や凡退も少ない出塁率の高い二番、三番バッターのようなものである。3・11後の現在の日本のエネルギー状況で求められているのは、試合に着実に勝つことであって、子どものファンを喜ばすために、大ぶり三振や走者封殺のリスクを冒してホームランを狙うことではない。現状は、かつて四番を打っていた高級取りの石油に疲れが見え、力任せの大ぶりスイングで、監督の覚えめでたく四番と目されていた原子力が、力みすぎの大ファウルで観客に怪我をさせ、自らも大怪我してしまったようなものである。そうである以上、試合に勝つためには、これまで二番、三番を打っていた天然ガスが四番に変わり、長打が打てずに調子の波が大きいので八番、九番だった風力発電・太陽光発電などを、一番、二番に繰り上げていくしかない。三番、五番は、疲れと怪我で衰えたとはいえ、未だ侮れない長距離ヒッターの石油と原子力が打つしかないだろう。