月別アーカイブ: 2016年11月

『偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部』

海老原嗣生『偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部』(朝日新書 2012)を読む。
具体的に大学名をあげ、「就職に強い大学だと銘打てるのは、関関同立・6大学GMARCHあたりまで」「下位の大学ほど、就職率は「金融系」でカバー」「文学部は人気企業への就職に不利」「大東亜帝国では就職を希望しない学生を除いて就職率を計算しているが、そうした『操作可能な学生』の割合が4割を超えている」など、インパクトのある話が続く。
最後に、筆者は次のように述べる。口で言うのは簡単だが。。。

(薄っぺらな就職対策に力を入れる大学側の動きに対して)企業が望むのは、的確に相手の質問意図をとらえ、それに対して、説得力の高い応答を、素早く、しかも簡潔に行えることである。そういう力は、「面接対策」ではなく、学問・学究活動をしながら十分磨ける。この部分は、大学教育と融合が可能なはずだ。こうした、本質的な考える力の養成ならば、スキル教育を重視する専門学校とも一線を画すことができるだろう。
 つまり、考える力を鍛えるようなシラバスを作り、そのシラバスの題材として、経済や法律や文学などを利用すれば、大学教育と社会人力養成は相反さない。そうすれば、学生も学業に力を入れる。
 逆に、現状のような「就職活動を後ろ倒しにする」などという本質的ではない対症療法を繰り返していても、決して学生は学業に力を注ぎはしないだろう。

『3.11後、日本人はどう生きるべきか?』

菅下清廣『3.11後、日本人はどう生きるべきか?』(フォレスト出版 2011)を読む。
国際金融コンサルタント・経済評論家の著者と、刊行当時に政治的・商業的な野望を持っていた人物との対談集である。当時民主党議員だった小沢鋭仁氏、株式会社イミオを立ち上げた倉林啓士郎氏、インターネット広告代理店オプトのCEO鉢嶺登氏、自民党議員林芳正氏、サイバードホールディングスCEO掘主知ロバート氏、ワークスアプリケーションズCEO牧野正幸氏、みんなの党代表渡辺喜美氏との7名と、当時行き詰まっていた民主党政権やリーマンショク後のデフレ不況、ネットビジネスなどについて奔放に語っている。
当時民主党議員だった小沢鋭仁氏の発言が興味深かった。2%ほどのインフレターゲット導入と、その具体策としての金融政策・マクロ経済政策、また大胆な金融緩和や日銀法改正など、徹底したデフレ対策を主張している。まんまアベノミクスである。民主党政権がもう少し続いていれば、経済政策も変わっていたのだろうか。

『女王卑弥呼』

三枝和子『女王卑弥呼』(講談社 1991)を読む。
あとがきの中で、「この遺蹟(吉野ヶ里)を卑弥呼の生きた場所にしよう」とある通り、北九州周辺にあったとされる奴国や末盧国、不弥国といった国々との政治の駆け引きに翻弄される、一国のリーダーとしての卑弥呼の活躍が描かれる。最後は、宗像三宮に数えられる辺津宮、中津宮を経て、九州と朝鮮半島とを結ぶ玄界灘のほぼ中央に浮かぶ沖ノ島の沖津宮へと渡り、後継となる壱与の出産と同時に命を落とすという大胆な想像を交えた物語となっている。素直に面白かった。

『箸墓幻想』

内田康夫『箸墓幻想』(毎日新聞社 2001)を読む。
毎日新聞日曜版で連載された小説の単行本である。卑弥呼の墓とも言われる奈良県桜井市にある箸墓古墳とその脇にあるホケノ山古墳を舞台とした殺人事件で、畝傍山や橿原神宮、長谷寺、二上山など飛鳥地方を代表する観光地も数多く登場し、更には邪馬台国論争までも絡んだボリュームたっぷりの内容であった。400ページを超える作品であったが、歴史ミステリーにどっぷりと浸かることができた。
後半は、作者お得意の戦前戦後の混乱期での複雑な人間関係が話の中心となるが、最後まで古墳に纏わる古代史の魅力が色褪せず、楽しく読むことができた。
いつか、三輪山から箸墓古墳を経て春日山まで通じる日本最古の道ともいわれる「山辺の道」を走ってみたいと思う。